心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

この先のあなたが楽しみ。

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すでに2年くらい前のことになる。
現在の先生のカウンセリングを始めて半年くらいの時、心の中の悲しみや自分への不甲斐なさを吐き出して泣きベソ顔の自分に、先生は穏やかな笑顔でこう言った。
「この先のあなたが楽しみだなぁ〜」

その時の自分は、涙なんか引っ込んじゃって、咄嗟に「あたくしの何が楽しみっていうのよ?」という怒りが出た。
あたくしの心は長く人間不信に苛まれ、固く凝り固まっていた。
カウンセラーの先生の言葉は綺麗事の“おためごかし”にしか聞こえなかったし、そもそも笑う意味がわからなかった。
流石に先生に突っかかって行きやしなかったけどもね。

「もう50歳だから、あたくしは終わってるんです!」
「他人事だからって気休め言うな!」
くらいには思って心の中をグツグツと煮立てさせたのだ。

だから、絶望感に包まれて未来に全く明かりが見えない時に「この先のあなたが楽しみ」だなんて言われたら、心に怒りや反発心が湧いてしまう人の気持ちはよく分かるつもり。

…つもりなのであるが、今、自分も目の前の人についつい言っちゃってる。
「この先のあなたが楽しみだなぁ〜」と。

相手はやっぱり「何なのよ?」という表情だ。
あからさまに、どこが楽しみ? あなたの頭はどんだけヌルいの?くらいの顔をする。



過去が辛くてしょうがない時、かつて先生は何度も何度も言ってくれた。
「無条件で受け入れてくれる人を思い出しなさい」と。
そうして先生自身も、“無条件で受け入れてくれる存在”の役を全力でやってくれたのだ。

だから今、あたくしの中には先生が育ててくれた“あたくしを無条件で受け入れてくれる誰か”がいる。それはもう、先生ではなさそうで、誰なのか分からない。

最近、あの時の…泣きベソのあたくしをニコニコと眺めるカウンセラーの先生の顔を思い出す。
それは、ヨチヨチ歩きの子供が目の前で転んでビービー泣いている時に、優しく抱きかかえて起こしてくれる保護者の笑顔だ。

あたくしも先生に習い、今、目の前にいる子に対して“無条件で受けれる役”を必死に努めようとしている。
その子の心の中に、あたくしも“無条件で受け入れてくれる存在”を作ることができるのだろうか?

今、自分も目の前の愛しき彼が怒っていようが、泣き事を言おうが、こちらはひたすら嬉しく笑みがこぼれる。笑っていたらなおさら嬉しい。たとえ自分に向けられた笑顔でなくても。

どうやら彼には最近、心を許せる友人が出来たらしい。
もう、自分がことさら彼を励まさなくても、彼は現実で癒されていくんじゃないかな? とボンヤリ思う。
それは別れの予感で、胸が痛むけれど、同時に彼の自立を願うあたくしの望みでもある。

愛しき彼もわたくし同様に困った時に笑っちゃうタチなんだけど、そうした不自然な笑顔は少なくなった。
最近の彼の笑顔は、屈託のない満点の笑顔だ。
まるで暗い過去があるなんて微塵も感じさせない、何の苦労も知らないような憂いのない笑顔だ。

だからあたくしは彼に願う。
世界は美しいから、時々傷つけられる事があるかもしれないけど、負けじと冒険してくれたまえ、と。
いざとなったら、全部あたくしが受け止めてあげるから!



「先生、自分には子どもがいないからこんな気持ちになるなんて思ってもいなかった。これって、我が子に感じる無条件の愛情と同じですよね?」

自身のカウンセリングの時間、微かに頰を紅潮させて夢見るようにあたくしは告白した。
今、私の夢は、全く別の形だけれど、叶っていますよね?

だけど、先生は静かに否定した。
「ねぇ、葉月さん、
 子育てと療育は、違うよ?」

あ〜やっぱり悲しいけれどそうだよね?
彼は、よそん家の子。
勘違いしてはいけないのだ。

でも、厄介な逆転移は緩やかにほどけて、恋心から脱却し、人類愛に至れそうなので、あたくしはホッとしている。

ちと寂しいけど、ホントよ?
今は、緩やかに遠ざかる彼を、眩しく見ているの。
この先のあなたが楽しみだなぁ〜って。