心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

また、嘘をつく。

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前回の面接で夢の中の徒競走の話をした時に、私は言った。
「わたしは足がとてもノロいので、一等賞なんて夢の中でしかありえない。
 現実では、小学校の6年間、徒競走で四等賞以上になったことがありません」
だいたい6人くらいでヨーイドンで、いつも後ろから数えた方が早い感じ。
 
「その時、どんな気持ちでしたか?」とカウンセラーの先生が聞いてきた。
まさか現実世界の話になるとは思ってなかったので、自分は少しうろたえたのかもしれない。
慌てて、まくしたてるように、こう言った。
「どんな、って別に? 早く終わればいいなぁ〜って思ってましたよ?
 でも、そんなに気にならない。自分はお絵描きやお勉強は達者だったから」
自分は明らかに不自然で、何やらソワソワしていたのだけど、先生は「あっ、そう?」と言って、その日の面接は時間を迎えてお開きになった。
 
帰り道、そのモヤモヤ感を抱えながらの帰途、自分はその理由に気が付いて、面接の最後の方をやり直したくなった。
路上で足が止まり、走って戻りたくなった。
なし! なし! さっきのなし!
 
ああ、また嘘をついてしまった…
 
 
 
そういう訳で、今回の面接はのっけからその件を話題にしてみる。
申し訳なさそうにカミングアウトする自分に、
「あなたが嘘を付いてもさぁ〜、僕は全然気が付かないよ?」
「いつもそんな風に考えちゃうの?」
そういう時、先生は、ややサディスティックな感じの笑みをする。
「でも、あなたが言いたいというなら、ホントのこと言ってもいいけど?」
 
あっ、そうですか、じゃあ言いますね?
「徒競走でビリでも平気だった、っていうのは嘘です」
あれは大人の自分が子ども時代の自分に言ってあげたいことで、当時の真実の気持ちではないのです。
 
母親が朝から海苔巻きとか唐揚げとか作って、父親は一眼レフを抱えて運動会を見に来るんです。
その晴れの舞台で毎年ビリ。
前日まで雨が降らないか期待していたし、当日は熱の朝は平熱であることを呪ってましたよ。
本当は…とても嫌でしたよ。惨めでした。
 
惨めな気持ちを思い出したついでに、あたくしは、とんでもないことも考えていた。
自分は、こんな歳にもなって、“ああ、先生がパパだったら、運動会でビリでも自分に気まずい思いをさせないのになぁ”と思っちゃっていたのだ。
 
子どもの頃、何でも「早くしろ」と急き立て、ダラダラしていると不愉快になる父親を怖がっていたことを思い出したのだ。
そんな父の嫌な部分を、何故だか自分はずうっと忘れていた。
手を叩いて何事も急がせる父を、子どもの時は本当に恐れていた。
「自分はね、たとえ父に嫌な部分があったとしても、それは父のほんの一部分だと分かっているつもりなんですよ? でも、そんなお父さんは嫌だなあ、取り替えちゃいたいなあ〜って一瞬でも思っちゃったんですよ。世界でたった一人の実の父なのに」
 
 
 
先生は、勝手に50歳のオバさんのパパにされちゃったことには一言も触れずに、言った。
「あなたはホントにもらい下手なんだなぁ」
 
そう、「もらい上手になる」ってミッションはまだ継続中なのだ。
 
「僕、あなたの話を聞いてて思うんだけど、あなたのお父さんやお母さんは、あなたが運動会で一等賞取ることなんて期待してなかったと思うんだけど」
あたくしは、そう言われても全然ピンとこない。
「我が子が走っているの見れたら、何等賞でも良かったと思うよ」
ねえ、そうじゃない? という顔を先生はする。
 
そこまで言わせてやっと腑に落ちるのだった。
 …ああ、そうだねぇ、考えたこともなかったけれど、もし自分に子どもがいたら、きっとそう思うに違いない。
親として多少歯がゆく思っても、そんなことで我が子を恥ずかしく思ったりしないだろう。
 
しかし“もらい上手”をマスターするのは難儀なことだ。
しばし間を置いて、あたくしが率直な感想を伝えると、先生は「いや、今、ちょっと出来てた」と言う。
どこが“ちょっと出来てた”のかは全く分からない。
 
あたくしが妄想の世界の理想のパパにすがりつこうとすると、先生はそっと現実の世界にあたくしを押し戻す。
現実の世界で、ちゃんと受け取りなさいと促す。
 
「もらい上手」になれば、自分の中に揺るぎない安心感が生まれて、以前のような場面でもパニックが起きなくなるよ、と先生は言う。
 
そうなったらどんなにいいだろう?
 
勝手に罪悪感を感じたり、別の自分になりたいと思ったり、常に頑張ってないと愛されないという脅迫観念に駆られたり、そんなことから解放されたらどんなにいいだろう?
 
そんなことにメモリーを使わずに済んだら、どんなに心も身体も軽くなるだろう!
 
先生はあたくしの言動を疑ったりしないし、嘘を見破ったりしない、移ろう自分をそのまま見ている。
だから罪悪感なんて必要ないんだ。