心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

「オープンダイアローグ」というやり方。

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お薬無しで統合失調症の急性期に対処する方法。

「オープンダイアローグ」という言葉は、昨年の今頃、傾聴ボランティア講座でご一緒させていただいた女性から始めて聞いた。
精神保健福祉士でもある彼女が「今、学びたい技術」だと言っていた。
 
何でも、フィンランドでは統合失調症の急性期のケアとして、画期的な効果を上げている治療法だそうだ。
「オープンダイアローグ」…直訳すると「開かれた対話」ということか?
「そう、対話そのものが治療になる方法。薬も随分減らせるらしいの」
 
それ聞いた時、嘘だあ〜と思いました。
以前、統合失調症の方とお仕事してたことがあるけど、彼らの治療がどんなに難しくデリケートなことか、少しは知っている。
話すだけで治ったら苦労はないのだ。
その時は、スピリチュアルな代替医療かしら?、くらいに思っていた。
うつや神経症に対してもそうだけど、人の弱みに付け込むインチキスピリチュアルは結構、多い。
 
ただ、教えてくれた女性の雰囲気が、そうした軽薄感とは無縁だったこともあり、その後もなんとなく気になった。
そこで、図書館で関連図書を借りて読んでみた。
 
『オープンダイアローグとは何か』斎藤環
 
結論から申しますと、エビデンスのある極めて真面目な療法でした。疑ってゴメン。
 
とはいえ、著者である斎藤先生(精神科医・筑波大教授)も、「最初はニセ科学か、うさんくさい代替医療だと思った」と序文で書いていたくらい、それはそれは不思議な療法だ。
何しろ、精神科医は投薬でもって統合失調症の治療にあたる立場だから、非常に困惑しただろう。

本当にただ対話するだけの「オープンダイアローグ」。

1980年代、フィンランドの西ラップランドのとある病院での試みから「オープンダイアローグ」は生まれたそうだ。
 
方法はいたってシンプル。
患者かその家族が相談依頼の電話をする→受けた担当者が医療専門職(医師・看護師・心理士)による治療者チーム(2名以上)を編成→24時間以内に患者とその家族や友人を交え、自宅において初回ミーティングを行う→急性期を脱するまで同じメンバーでミーティングを重ねる。
 
そしてミーティング…って、イメージが湧きにくいかもしれない。
結局、グループカウンセリングみたいなもの? と思うかもしれない。
 
でも、カウンセリングとは大きく違う点がある。
それは「問題解決を目的にしない」こと。
 
とりあえず、患者に話してもらう。ここでの傾聴の姿勢はとても重要だ。
治療スタッフは、決して「それは妄想なんだって!」などと患者の言っていることを否定したり、病識を持たせようと説得しない。
「へえ、それは私は感じたことがないので、その辺を詳しく教えてください」と聞いたりする。
(通常、妄想について詳しく聞くことは、患者の妄想を助長する恐れがあるのでタブーらしい)
また、参加している家族や友人にも患者とも自由に話してもらう。
急性期の妄想や混乱、恐怖など、まだ言葉にできていない恐怖を患者に言語化してもらうことが大切で、体験を共有し、ただひたすら患者の気持ちに寄り添おうとするのだ。
 
こうして、ひとしきり患者とその周囲の人に話してもらった後で、それまで聞き役に徹していた治療チームが今度は対話を始める。
手法的には「リフレクティング」というそうだ。
あえて患者や家族の前で治療者同士の感想や意見を聞かせることで、これが患者に安心感をもたらす効果がある。
まず、患者の非常に個人的な視点に、客観的な視点を持ち込むことができ、そうして、影で患者に関して話し合ったり、大切なことを勝手に決めちゃったりしないよ、と患者の信頼感を得ることができる。
 
そうして、この治療者チームは、ケースを持ち帰って別の場所で何かを決めることは「本当に」しないらしい。
治療者が2人以上いるので、意見が違う場面もあるけれど、違ったとしてももちろん構わない。ただ、確認し合うだけ。
例えば医師と看護師であっても上下関係はなく、対等な立場で会話を行うそう。
対話においてもファシリテーター的な役も作らない。
 
1回につき1時間半程度、これを患者の急性期が過ぎるまで繰り返す(長くて10日程度)のが治療の全て、…だそうです。
 
何かを変えたり、どこかに導くための対話ではなく、あくまでも対話そのものの癒し効果を体感するために対話を行うのが「オープンダイアローグ」というやり方なのだ。
 
「まるでジャズのアドリブのようだ」と著者はこの治療を例えていました。
一見、流れに任せているだけに見えるけど、実は職人芸ってやつかな。

ただし「何処でも誰にでも」になるには課題が山積かも。

現在フィンランドでは、希望すればだれでも無料でこの治療を受けることができるそうだ。
随分贅沢な治療に思えるのだけど、従来の薬物メインの治療に比べて、入院期間の短縮や減薬効果が期待できるので、仮に有料であったとしても、これまでの治療よりは安価に済むらしい。
いいことづくめのようだけど、そもそも、フィンランドメンタルヘルス・システムはかなり保守的で、意外なことに、この国ですら「オープンダイアローグ」に抵抗感を示す人は少なくないらしい。
統合失調症の治療における減薬はそれだけリスキーだと考えられている現状があるし、田舎の小さなコミュニティ(西ラップランド地方)で成功した方法が都市部でも実現可能か?という点でも、なかなか難しいみたい。
 
この方法は、全員が集う必要がありますからね。
現実問題として、家族が参加したがらない例もあるそうです。
それに治療スタッフ側でも、それまでは積極的に介入して問題解決をしてきたのに、「ただ対話する」っていうのに抵抗を感じる人もいるらしい。
そういうわけで、現時点ではまだ模索する余地のある療法、進化途中の療法なのかもしれないですね。
 
この方法、治療対象は統合失調症に限らず、うつ病PTSD家庭内暴力などの治療例もあるらしい。
へぇ〜。可能であれば、あたくしはちょっと試してみたいと思う。
家で連日ミーティング…っていうのは、疲れるような気もするけど、誰にも批判されずに自分の体験を語れたら、それだけで少し楽になりそうだ。
 
著者の斎藤先生は、日本ではこの方法をまず、ひきこもりや家庭内暴力の治療法に試みることを考えているそうだ。
やはり医師として、いきなり統合失調症の治療に実施するのは抵抗があるのだろうか。
 
統合失調症罹患率は100人に1人と言われているから、患者さんはたくさんいるのだけれど。
そうして、統合失調症の患者さんにもうつ病の患者同様、薬物に抵抗感の強い人も少なくない。
だから、「オープンダイアローグ」のような薬物以外の治療法が選択肢の一つになるのはいいではないかしら、と思う。
いきなり断薬して、悪化させる方もいらっしゃるので、こうした心理療法が救いになる人もいるのでは、と。
 
しかし、これが日本で実現されるのはなかなか難しそうだ。
エビデンスがそこそこある療法も日本ではなかなか保険適応にならない。
カウンセリングすらなかなか保険適応で受けられないのは、原則的にそれが医師による行為でなければならないから、らしい。
臨床心理士はそこそこ取得が困難なのに、諸所の事情で国家資格ではない)
 
もう少ししたら、やっと日本に国家資格を持った心理士が登場する。そうしたら、もう少し色々な心理療法が保険適応で利用できる日が来るかもしれない。
積極的に心理療法をオススメする病院すら出てくるかもしれない。病院経営も大変だからね。
 
話は外れるけれど、今、我が母は、足の手術後で入院している。
医師には1週間に1度会うか会わないかくらいなんだけど、リハビリは毎日2回、1回1時間、理学療法士さんがつきっきりでお世話してくれる。
もちろん保険適応で。
 
歩けるようになろうと思って手術したのに、十分なリハビリがなかったために余計に悪化させてしまうこともあるらしいので、篤いリハビリをしてくれる病院は大人気だ。
 
こういうのを見てると、足のようにリアルに扱える部分のケアと、ココロという捉えどころのない部分のケアの、普及度合いの差を感じるんだよなぁ。
 
オープンダイアローグとは何か

オープンダイアローグとは何か

 

著者の文章は平易で、言葉が人を癒す仕組みに関しての説明もあり、コンパクトにまとまっています。専門用語には索引が付いているので、門外漢でも何とか付いていける内容。統合失調症の妄想は全くの突飛な内容なのではなく、それなりの理由があることなんかも理解できました。良い本だと思います。