心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

カウンセラーの逆転移について理解を深める本。

f:id:spica-suzuhazu:20170704130058j:plain逆転移とは、クライエントがカウンセラーに対してではなく、「逆」にカウンセラーがクライエントに対してある種の感情を抱くことです。そして、“ある種の感情”というのは転移の現象同様、親や配偶者など身近な人と感じている気持ちの投影であることが多いです。
 
カウンセラーは当然、知識としての転移や逆転移は知っている。だけれども、頭で知っていても体験がなければ、なかなか適切な対処ができるものではありません。そして、そんな初心者カウンセラーの失敗は、いちいち悩んでいたら前に進めないぜ、どんどん経験積めば大丈夫だから! というのがかつてのカウンセリング界の常識だったらしい(もしかして今も?)。
 
そういう流れに対して、「いや、多くの人が陥りやすい失敗だったらその情報を共有して学ぶべきでは?」てな感じでまとめられた本がある。
『転んで学ぶ心理療法 初心者のための逆転移入門』遠藤祐乃著
 
この本は臨床心理士を目指す学生さんや新米カウンセラーに向けて書かれた本なのだけど、一般書のような平易な文章で書かれていて、カウンセリングを受ける側の立場で読んでもなかなか興味深い。カウンセラーがカウンセリング中にどんな風に考えているのかを垣間見ることができるし、どんな応答が失敗であり模範解答なのか知ることができる。かつてカウンセリングを受けて失敗した経験を持つ人は、どうして上手くいかなかったのかヒントが得られるかもしれない。逆転移だけで一冊書けちゃんだ!と驚いてしまうくらい内容は深いです。
 
面白ポイントはいろいろあって、
1)著者の自己開示が素晴らしい 
2)カウンセラー側の心理的葛藤が良く分かる 
3)失敗に対して、どんな応答なら良かったのか具体的に解説 
…あたりが挙げられる。
 
カウンセラーに対して、ある種、完璧な人間像を持ってしまう人は多いのではないだろうか? 少なくとも人の心に関してはエキスパートなんだと。
でも、この本からはそうではない「全然教科書通りにすすまない!」とオロオロする人間らしいカウンセラー像が垣間見えて「カウンセラーもやっぱり人の子なんだわ」と好感が持てます。
 
経験の浅いカウンセラーの気持ちを丁寧に拾っている本って、他には見当たらないと思うので、カウンセリングを勉強している人にもきっと多くのヒントを与えてくれるかと。
 
この本の魅力の一つは、著者が感じたことを、あまり人に知られたくないような思いまで包み隠さず披露しているところにある。
未熟なカウンセラーの心を表現した部分で、この先生、正直だなーと感じられる一節がある。
 
初心者は経験がないのだから、当然、うまくやれる自信などない。毎回の面接で「果たして自分はクライエントの役に立っているのだろうか」と不安になるのが当たり前である。しかしその一方、心のどこかではクライエントから「先生にお話を聴いてもらうと、なんだか安心します」、「先生のおかげで、今まで気づかなかった本当の気持ちに気づき、心の整理ができて落ち着きました」と評価され、感謝されたいと思っているものである。
 
ね? ホントに正直でしょ(笑)? これが「人の役に立つ仕事」を志す人の最初の心持ちだと思う。
 
もちろん、人からの評価なんか気にしてちゃあダメで、もっとクライエントに集中しなきゃ! とかは、その後の道すがら、気づくことになると思う。クライエントに集中さえできれば、策に溺れずともカウンセリングはある程度は進むものだったりすることにも…。
 
感謝される仕事だと思ってたのに全然感謝されないどころか、軽く恨まれたりして、思っていたようなイイ仕事と全然違うよ〜とかなんとか、ガッカリ感やら怒りやらの先に、何かとてつもなく楽しげなものを見つけられるような人が、熟練カウンセラーへの道を歩めるのだろう。
 
それに、熟練したカウンセラーほど自己洞察を促すのが上手い。クライアントは教えてもらったのではなく、自分一人で気付いたという実感を持つことができ、これが自分で問題解決できるんだという自信に繋がる。…だからカウンセリング技術が上達すればするほど「先生のおかげで〜感謝」とはならないような気がします(笑)。感謝があるとすれば、全く異なる種類の感謝になるんじゃないかな?
 
この本を読んでいてホッとしたのは、中断したカウンセリングに対して「どこが悪かったんだろう?」と思い返すカウンセラーの存在だ。自分の失敗を(しかも複数!)さらけ出すのはかなりの勇気を必要としたと思う。そんな著者の勇気が、今後のカウンセリングの世界で報われることを切に願います。
 
昨年お世話になり「何も変わらない!」と24回目にカウンセリングを中断してしまったあの臨床心理士の先生も、あたくしとのセッションを思い出すことがあるのだろうか? とフト考えた。
少しでも我が事と考えて、今後の芸の肥やしにしてくれてたらなあ、と思う。
ころんで学ぶ心理療法―初心者のための逆転移入門

ころんで学ぶ心理療法―初心者のための逆転移入門

 

※ちょっと前まで品切れだったのですが、重版された模様です。こういう本は長く刷り続けて欲しいなあ…