心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

勘違いしてはいけない。

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これは、相談を聞く立場としては弱点であるのだと思うけれど、核心を突く話にあたくしは弱い。
特に、いきなり相談者の心の奥の深い話をされた時に、弱い。
「まだ、心の準備ができていません!」と、腰が引けてしまう。
 
ふいに決心したかの様に、何かが吹っ切れたように、ある日、ある時、相談者のレアな体験や思いが迸(ほとばし)る時、あたくしは狼狽する。
「周辺からゆっくり話をしていこうか?」というスタンスは、相手への思いやりもあるけれど、自分への衝撃を緩和したいというのもある。
 
子どもの頃からずっと感じていた違和感、捨て去りたいこだわり、自分への不甲斐なさ、深くて暗くて冷たい孤独感。
相談者の、弱点とも言えるそんな気持ちに触れると、あたくしの心は子ウサギのようにフルフルと震える。
帰りの電車の中で、その時の言葉、相談者のこちらを伺うような臆病な視線を、何度も何度も反芻(はんすう)する。
 
そうして、どうしたらこの信頼感にお応えできるのか、時代遅れのプロセッサしか積んでいない頭で考える。
 
だって、あたくししか知らない訳でしょう?
あたくしが何とかしなきゃ!
 
 
 
そこで、あたくしの心の師匠、カウンセラーの先生のツッコミが入る。
「なんでさぁ、“自分しか”知らないって言い切れるワケ?」
 
「は?」
「言ってる言ってる、そんなの、誰にでも言ってるよ!」
いやだ、先生、鼻先で笑ってるよ!
そういう時の先生の顔は、ソフトにサディスティックなんだな(笑)。
あたくしの思い上がりを…ポキリと折る言葉。
 
とっさに「そうでしょうか!?」と返してしまったけれど、薄々自分だって恐れていることだ。
だから痛い。
 
先生は、あたくしの相談者への恋心を「そんなに簡単に収まるもんじゃあない」と許しつつも、「勘違いするな」と釘を刺す。
「それは、“あなた”に言っているんじゃない。
 相談者は“あなた”個人を見て話しているワケではないよ?」
分かる? という顔をする。
「“あなた”が相談を聞く役割の人だから話してくれるの。
 たまたまなの!」
 
あ〜先生、寝ぼけているあたくしの頭をブッ飛ばしてくれるお言葉、ありがとう。
ヌルくなっている頭に冷水をかけてくれて、ありがとう。
そうです、“たまたま”なんだよね?
 
 
 
前回、「とりあえず自分の疾患について本で調べてよ」と所望した彼に、あたくしは「医学書は読みました」と言ったのだ。
その上で「病気のことはだいたい分かったけれど、あなたのことはまだ分からないことだらけ」と本音を語ってみた。
だって、本なんかに、あなたのことがそのまま書いてあるワケないじゃない?
 
彼は、ちょっと考えて、「ここと、ここ…」医学書の解説に線を引いた。
そこが彼に当てはまる、特に困っている症状らしい。
その単語の一つ一つを拾い上げて、具体的にはどうなんだ、という話をする。
幼稚園の時、小学生の時、中学生の時…彼の人生を少しずつなぞる。
 
あたくしは彼のポツポツとした説明を聞きながら、「そうなんだ、あーそうなんだ、分かってきたわ〜 それは辛いね。言ってもらってよかったよ」とイチイチ返す。
本当に、言ってもらえて初めて分かることがいっぱいある。
まだ言ってらぁ〜って感じになるけど、このプロセスが、恋の始まりに似てなくもない(笑)。
でも、“たまたま”なんだよね?
 
あたくしは今、とっても彼の近くにいるような気がする。
だけれども、彼はやっぱり一人なんだろう。
そこにあたくしはいないのだろう。
今、彼が覗き込んでいるのは、あたくしではなく、彼自身なんだ。
やっと向き合えるようになった自分自身と、今、彼は対話している。
 
邪魔しちゃいけないよね?
 
 
 
先生に手厳しく言われて、多少は現実に引き戻されたのだけれど、やっぱりまだあたくしの頭には花が咲いている。
相談者との出会い、そうして二人の時間を持てることを奇跡だと思い、そんな世界が愛おしい。
 
何かがちょっとズレていたら、絶対に出会えない人。
そうして、何かあれば儚く途切れてしまう繫がりなんだろう。
 
勘違いなんだろうけど、そういうのに人生の不思議さ、運命みたいなものを感じてしまうワケ…。
 
今、ここに居れてよかったなぁ、とか。