心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

何もしていない。

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逆転移の相手との相談はまだ継続中! だ。
今回のあたくしの逆転移は、カウンセラーの先生への陽性転移の気持ちと違って、至極、目まぐるしく変わる。
先生へ対しては感じなかった気持ちの全てが出てきている…という風にさえ思う。
 
嫉妬心、打ち負かしたい気持ち、嫌がっているのにこじ開けたい気持ち、尊敬されたい、一目置かれたい、特別扱いしてもらいたい、秘密を共有したい…。
先生への気持ちが清らかだったのに対して、こちらは本当に煩悩にまみれているな、と思う。
そうしてこれらの気持ちは表裏一体なのだ。
こじ開けたい欲求は、こじ開けられたい欲求とお隣さん同士なのだ。
ああ、怖い。
あたくしは、相談者を目の前にして「修行、修行」と堪えつつ、じっと話を聞く。
 
そんな時、「ところで…」と相談者から質問される。
「あなたのは、何療法ですか?」
 
汗…何療法もしていない! 
何もしていないよ、…というより、何療法もできない(笑)。
本当にすみません。
ただ話を聞いているだけです。
 
精神分析なの?」と聞いてくる。
親子関係の話に触れると、相談者は「分析されるのではないか?」と身構えるのだ。
「安心してほしい。あたくしは、精神分析はしていない」と、正直に答える。
「あなたが自分自身のことを分かれば、こちらはあなたのことが分からなくても一向に構わないの、よ?」
相談者を安心させたくて必死に伝える。
 
それに、これは本当の気持ちだ。
あたくしは相談者をバラバラにして、その部品をシゲシゲと見たい訳じゃない。
全体のコンビネーションが好きなのだ。
多少アンバランスなところがあっても、それがイイ。
そうして、その良さを相談者自身にも知ってもらいたいだけなのだ。
 
けれども相談者はそうじゃない。
嫌な部分は切って捨てちゃいたい、と考える。
どうやったら切って捨てられるでしょうか? と、そんな話ばかりする。
捨てられないし、捨てないほうがイイよ。
捨てちゃったら、あなたじゃなくなるよ?
 
嫌な部分を病巣だと思ったら、切って捨てたくなる気持ちは分からないでもない。
どうやったらその負のイメージを変えられるのか?
 
 
 
思うに、このやりとりは、あたくしのカウンセリングの軌跡をなぞっている。
相談者からの疑り深い言葉は、かつてのあたくしの気持ちと同じだ。
嫌な部分を切って捨てたいと思っていた頃の自分と相談者とは、重なる部分があるのだ。
 
要するに、あたくし、結局は自分が愛おしい、ということだろうか?
ちゃんと相談者を見ているのだろうか?
 
聡明な相談者に対して、間抜けなことを言っていないか、大切な時間を無駄にしてはいないか、不安になることがある。
ありがたいことに、相談者が自分を信頼してくれているのは、とてもよく分かる。
あたくしは折を見て「このやりかたで大丈夫か? 軌道修正の必要はないか?」と確認することにしている。
それは、自分の心細さ、未熟さ、自信のなさからというのもあるけれど、一番には相手を意識し、尊重したい気持ちの表現だったりする。
相談者は、「このやり方でいい」と同意してくれている。
ああ、そうだ、だから、迷いを捨てろ、自分…と自らに言い聞かせる。
 
時折、相談者との時間が、とても孤独な、まるで一人相撲のように感じることがある。
この時間を、言葉を、ちょっとは心に留めて欲しいなぁ、とか、欲に駆られることがある。
 
いや、そんなことなくていいのだ。
相談者が、いつしかあたくしのことを忘れてしまっても、その人にとって通りすがりの人だったとしても、少しでも相談者の心に安らかな世界が出来ればいいじゃないの? と、自分に言い聞かせる。
 
 
 
愛しい相談者は、相談に来ておきながら「そんなに困ってない」と遠慮するのだ。
試しに人を頼ってみなよ? ダメ元でお願いしてみなよ? ね、やってみて?
かつての自分に言い聞かせるように、あたくしは語りかける。
 
「だって、困ってなかったら、ここに来ないでしょう?」
そう投げかけたら、言葉に詰まった相談者はこう言った。
「本に書いてあることが、そのまま自分の困っていることです…」
 
それは、自分の困っていることを上手く言えないから、その辺、本で病名を調べて読んでくれ、という意味なのだ。
その時、一見、尊大にも見えるその態度に、あたくしは絶句してしまった。
だけど、その後、何度もその言葉を反芻していると、何故か不思議と、自分の心には何か柔らかで温かなものが広がっていった。
 
それは思えば、初めてとも言える、相談者から自分へのお願いだった。
理解してもらいたいというシグナルだったから。
 
見落とさなくてよかった。
あたくしは大したことは何もできないのですけども、理解するよう努めますとも、分析じゃなくて。