心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

We're All Alone.

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今日のカウンセリングも懺悔タイムだ。
 
「要するに、どうしようもない寂しさを抱えているんです」とあたくしは言う。
今日の先生は笑わない。
だいたい、ちょっと前まで「先生が好きでしょうがない!」と言っていたあたくしが、今度は「相談者に夢中です!」と言い出して、先生はどう思っていらっしゃるのか?
先生は、あたくしの相談者への逆転移が思いの外、深刻なことを憂いている。
 
「だから、その気持ちをなんとかしようと、躍起になって愛情の対象を探そうとするんです」
この気持ちは、恋心に酷似しているけれど、恋ではなく、幻だってことも分かっている。
先生への恋心しかり、相談者への恋心しかり。
 
「そうだね。それは恋とは違う。君の気持ちはもっと洗練される必要があるね」
自分の中に沸き起こった感情が何なのかよく分からないから、それを「恋」というカテゴリーに放り込んでしまうのだ。
相手が男性だから、恋のように錯覚するのだ。
以前、女性の相談者に触れたくなった時は、もちろん恋だなんて錯覚しなかった。
 
「付き合えたらいいな、と思いますか?」
「はい、すいません、思ってしまいます…」
お恥ずかしながら、これは本当で、妄想の中の自分は、彼と同じくらいの年齢に図々しくも若返っていて、一緒に映画なんか観ちゃってる(笑)。
もちろん、今日の先生は「思っているだけなら何でもアリ」みたいなことは言ってくれはしない。
ここは指導者として、あたくしの自己洞察を進める為、容赦なく質問攻めにする。
 
「付き合えたら自分は幸せになれると、思いますか?」
もっとも、今日はこんな先生からの追求を受ける為に、あたくしはカウンセリングルームに足を運んだ訳。
「はい…」と言いかけたら、先生は間髪入れず「本気で?!」と返してきた。
あたくしは慌てて繋ぐ。
「いえ、自分の一番の願いは、彼が同年代の人を愛せるようになることです。それは心から願ってます」
 
これは本心だ。それがいいに決まってる。
あたくしの願いは一つ、彼を孤独から救いたいのだから。
真の意味であたくしが彼を孤独から抜け出させることはできなくて、ただ彼が孤独から抜け出す為の手伝いをしてあげることくらいしかできない。
しかし、彼を自分の手で包み込み、温めたくなる気持ちは何なのだろう?
 
かつてカウンセラーの先生に激しい陽性転移を起していた時、単に話すだけでなく直に温めてもらいたいと狂おしく想い、その叶わぬ願いに身悶えしていた時と、全く逆の構図なんだ、これは!
 
「そもそも、彼のどこが好きなの?」
今日の先生は容赦ないのだ。
どこまでも、どこまでも、あたくしの気持ちを掘り下げようとする。
 
それはあたくしだって、こうなった以上、もう分からない(笑)。
とある出来事で、彼の心の中の深い孤独を垣間見てから、あたくしはすっかり「おかしく」なったのだ。
 
 
 
「寂しいのです。底なしの寂しさがあるのです」
あたくしの心は、結局ここに辿り着く。
相談者の持つ深い寂しさが、あたくしの中の寂しさに共鳴して、この逆転移は起きている。
 
「それはね、ぼくも同じ気持ちだよ?」
と先生はあたくしの寂しさに共感を示して「だけど、どんなことをしても癒されないよ?」と諭してくれた。
「どんなこと」には、あたくしがこよなく求めてる、「人肌の温もり」も含んでる。
いつだったか、先生がそっとあたくしの手の甲に手を当ててくれた時のように、あたくしも彼の手を温めたいのだ。
 
「そうか…ダメですか…そうですよね?」
絶望的な気持ちだけど、そんなこと、ダテに50年生きてはいないから薄々気が付いている。
 
「だから…」先生は念押しのように言う。
「その人に触れてはいけません。絶対に駄目です」
「でも…」と口ごもるあたくしに先生は間髪入れず、「駄目なものは駄目なの!」と釘を刺す。
それは分かってる。
そんな自分本位の気持ちは、どうであれ彼を傷つける。
そんなことをしてしまえば、自分はこの仕事をする人としては失格だ。
 
 
 
Boz Scaggsの曲で“We're All Alone”というのがある。
かつての大ヒットソングなので、聞けば分かる人もいるかと思う。
 
あたくしはこの曲のタイトルを「みんな、一人ぼっち」なのだと思って、なんて悲しい曲なんだろうと思ってた。
でもね、調べたら、どうやら「私たち、二人きり」という意味とも取れるらしい。
全く逆やん、難しいな英語(笑)。
 
世界でたった二人きりの、その二人きりが寄り添って、互いを気遣い温め合う…。
あたくしが求めているのは、そんな実感なのか?
 
幸い、先生とのカウンセリングを通じて教えていただいたことがある。
「でもね、わたしは…本当に心が通じ合えば、身体なんか触れ合わなくても、まるで触れ合った時のような感覚を得られることは理解してるんですよ?」
「そうだね、それは、ぼくも全く同感だよ」
先生は深い同意を示してくれた。
 
 
「だけど、その寂しさは、一生、癒されないよ?」
先生は念を押す。
ぼくもそうだから、あなたもがんばりなさいと励ます。
 
みんな一人ぼっちであり、深い共感者でもあるのだ。