心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

恋に似て辛い。

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思うにあたくしは恋愛体質なのかも知れない。
前回に引き続き、今も相談者への逆転移的な特別な気持ちは続いているのだ。
 
あたくしがカウンセラーに対して抱いた陽性転移の気持ちは、「迷子が親を見つけた時の思わず泣けてくる安堵感」だったので、ある意味、心地よかったのだけど、今回の相談者への気持ちはどちらかと言うと辛い。
無茶苦茶、辛い。
片想いの時の切ない気持ちにも似ているし、病気の子供に何もできずにオロオロする親の気持ちにも似ているかも、とか思う。
 
それが、またしても恋心のように感じられることに、とても困っている。
 
自分は50歳を過ぎたオバさんだし、相手は自分より20歳も若い。
 
二人っきりの空間で、こちらを伺うような、見上げるような瞳で、相談者は慎重に言葉を選びながら、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。
あたくしは、その言葉一つひとつをまるで自分の気持ちそのもののように感じて、いちいち「ガーン」とか「ドーン」と来ているのだ。
 
相談が終わると、あたくしはフラフラになる。
無性に甘いものが食べたくなり、脳が酸欠気味になって睡魔が訪れる。
そうしてその後は、相談者の悲しみを反芻して追体験して、物思いに耽る。
 
 
 
得体が知れない感情だから、怖いのだ。
脅威を感じるのだ。
自分は一生懸命、この不条理な感情を合理化しようとする。
 
一つ、思い出すことがある。
 
あたくしには弟が一人いるのだけど、彼は20代の時に軽い鬱状態になって何年か家に引きこもっていたことがある。
 
彼は、割と偏差値の高い大学を卒業して、銀行に就職したものの、職場の人間関係に馴染めず、数年で会社を辞めたのだ。
父と母は、そんな彼を受け入れられず、その後の彼の存在自体を無視した。
 
ウチの親の最もダメだな〜と思うところは、ものすごく見栄っ張りなことだ。
親戚一同には、そもそも弟の大学名を更にランクの高い大学に詐称して伝えていたし、正月の集まりなどでも、弟はあたかも今も銀行にお勤めしている前提で話していた。
 
大人しくて優しい弟は空気を読み、親戚の集まりには、そうであるかのように役者に徹した。
 
インターネットのなかった時代、弟は日頃、自室に閉じこもって何を想い、何をしていたのだろう?
毎晩、家族が寝静まった頃に彼はコッソリ部屋から抜け出し、自分で冷蔵庫にあるものやインスタント食品を食べていた。
 
ある年のお盆休みの夜、たまたま両親もあたくしも泊まりがけで外出をし、弟が一人で家にいた時、彼は突如、腹部の激痛に襲われて救急車を呼ぶ羽目になった。
すぐに救急車は来てくれたのだけれど、健康保険証を持っていないことが分かると、近隣の救急病院は受け入れを拒み、弟は「たらい回し」になった。
 
結局、自宅から随分離れた病院に行き着き、命には別状ないことが分かったけれど、事の顛末を聞いてあたくしは青くなった。
「健康保険証持ってない!?」
何でも、両親は一度就職した息子を、再度、扶養家族に入れるのは恥ずかしかったのだそうだ。
 
その時に、猛烈に腹が立ったのを覚えている。
怒りに任せて「じゃあ、姉ちゃんの会社で扶養の手続きして保険証作るか?」と提案した時、弟は一瞬考えて、そして言った。
「いや、そこまでしなくてもいいよ、お姉ちゃん」
そうして、気が付いたら彼は派遣社員の登録をしに行き、程なく前職の経験を活かして働き出した。
 
弟はその後、派遣先にそのまま正社員として迎え入れられ、結婚もして、今は幸せに暮らしている。
きっと当時の数年間のことは忘れているに違いない。
それを心の傷として抱えているのはあたくしだけなのだろう。
 
 
 
要するに、それなんだ、その想いに似てるんだ、だから、これは自分の問題。
相談者の投げ込んできた感情が、そんなあたくしの個人的な記憶に触れているだけなんだ。
相談者はあの時の弟ではないし、あたくしが今の相談者の母や姉や恋人の代わりになれるわけもない。
通りすがりのまともな大人であることを貫いて、適度な距離感で接するしかないんだ。
 
先日、「この時間、辛い」と、相談者が打ち明けてくれた。
相談の時間、ずっと親子関係や将来への不安について話しているのだ。
その間、彼は自分の最もデリケートな部分に向き合わなきゃいけない。
聞いているあたくしが辛いくらいだから、その気持ちは痛いほど分かる。
 
「どうする? あなたどうしたい?」
あたくしはその子を助けたい。
少しでも気持ちを楽にしてあげたい。
あたくしは無力感に苛まれ、困り果てて率直に聞いた。
「もう止めたい」と言う絶望的な答えを聞かされるのを予感しながら…。
 
しかし、彼は、あたくしを慰めるような、励ますような、強く優しい声で呟いたのだ。
 
「前に進むしか、ないでしょう?」
 
こういうのを「惚れ直す」と言うのだろうか?←バカだねぇ!
 
信じよう、と思った。
目の前の相談者が持つ、本来の底力を、回復力を。
 
あなたが自分自身で嫌悪するような黒い気持ちを言葉にしたとてしても、あたくしは最後まで味方だよ?
そんなことを、心に決めた。