心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

今は「あの時」と違う、と理解しなさい。

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カウンセリングに赴き、開口一番「トラウマが再燃しそうです!」とあたくしは訴えた(言葉が変だな(笑))。
「トラウマぁ? 何よ、それ?」フッと先生は鼻先で笑う。
「先生、そこ、笑うところではないです!」と、ツッコミ入れながら、あたくしも笑ってしまう。
その自分の笑いを意識したところで、自分は少し冷静になれる。
 
現在の職場に訪れるお客様に怖い人がいるのだ。
三者が見たら、あたくしのその人への態度は、冷たく怒りを含んでいるように見えるかもしれない。
自分が、客観的に見て冷徹な態度を取っていることも自覚している。
もっとソフトに接した方が良いような気もするが、それを止めるのは難しい。
この根本は、恐怖から来ているものだから。
 
その人は、例えるとするならば、「つまらないことで何度もナースコールをかける入院患者」みたいな感じだ。
 
分かりきってくることを何度も何度も聞いてくる。
自分では決められないから指示してくれと言う。
ワザと間違えて、対応を求めてくる。
後回しにされたと思うと怒り、即座に対応しても態度が気に食わないと怒る。
 
疲れている、眠れない、鬱である、フラッシュバックがある、過呼吸になる、パニックになる…。
自分は弱者であるから、いたわってもらって当然、と優しさを貪欲に求めてくる。
何か具合が悪くなったら、それは対応を間違えた人のせいである、と暗に脅迫しているかのようだ。
 
自分はどうしようもなく重い病気だから、面倒くさいことは代わりに考えてもらいたいし、やりたくないことは見逃してもらいたいし、そんな自分のプライドを傷つけるような対応はしないで欲しい。
いつでも時間を割いて自分の話を聞いてもらいたい。
数々の主張をかいつまむとこんな感じだ。
 
でも、そんな「心身共に疲労し、何もできない」人が、プライベートでは夜遊びを繰り返し、自らトラブルの種となる行動ばかりしていることも、あたくしは知っている。
自分に都合の良いことばかりを言い、平気で嘘をつくことも。そのことに何の罪悪感も持っていないことも。
 
世の中には、人に迷惑をかけても、嫌われるようなことをしてでも、人と繋がりたいと切望する人がいる。
その人は、そういう人だと思う。
さざ波のように押し寄せるあたくしの嫌悪感。
「ありえない」とか思っても、そういう人は存在するんだ。初めてじゃない。
 
 
 
あたくしは新人ということで、何度かその方の対応をしたこともあり、相手から親しみを感じられているらしい。
ご指名で対応をお願いされることがある。
そんな中、最近、ジワジワと恐怖感に満たされてくるのを自覚していた。
 
その人の思考回路が、行動様式が、かつてのストーカーにどことなく似てるのだ。
 
もし、あたくしが対応を間違えて、その人から恨みを買うようなことがあれば、相手は何をするか分からない。
きっと、自分はまた、立ち上がれないほどの痛手を受けるであろう。
 
…かようにあたくしは、自分の過去の経験に当てはめ、自身の恐怖心を煽っているのだ。
だから、あたくしの恐怖は、相手に由来するものであっても、あくまでも自分の問題であったりする。
 
「あのね」と、先生は言った。
「あなた、“あのとき”と“今”とは違うってこと、分かりますか?」
 
それは、大切なことだ。
 
「分かります。
 まず、相手は、かつてのストーカーとは全くの別人だということが分かるし、
 今は、かつてと同じ状況になったとしても、自分が別の対処をすることも分かります。
 周囲にすぐに助けてくれる人がいることも、分かってます」
 
先生が、あたくしにそれを言語化させ、自覚を促すのは、あたくしを安心させる為だ。
 
「じゃあ、あなたは、その人に対してどう接したいの?」
 
「極めて、事務的に接したいです…」
あたくしは、本音をキッパリと言った。
 
「それを常に忘れずに行動しなさい」
先生は、あたくしのカウンセラーだ。
だから、あたくしを守ることだけを考えて助言してくれる。
 
実は、あたくしは心のどこかで、まだ一縷(いちる)の甘い希望を持っているのだ。
あたくしが何かしてあげたら、その困った人を助けてあげらるんじゃないかとか…。
それがあたくしの愚かさであり、弱さなんだ。
 
 
 
「いろいろなことが頭に浮かんでも、そういう気持ちがあるんだな、と思って、脇に置いておくんだよ?」
と、先生は言った。
「反応しないってことですよね? ヴィパッサナー瞑想ですね」
とあたくしが笑ったら、先生は真面目な顔をして
「フォーカシングだよ?」と念を押すように言った。
 
あたくしが、その困った人に、諭そうが、優しくしようが、怒ろうが、何か反応してしまったら、それは相手の心の炎に薪をくべてしまうことになるんだ。
 
「常に、人との距離を適度に保ちなさい」と、先生はあたくしに告げた。
たとえ自分が好意や親しみを感じた相手に対してであっても、慎みをもって適度な距離を保ちなさい、と。
それは、寂しがり屋の自分には辛いミッションだ。
 
それが自分の心を守る為だと分かっていても、あたくしにとっては難しいことなのだ。
でも、やりとげなきゃいけない。
 
本当に支援したい人の為にも、自分の為にも、あたくしはいつも健やかさを保たなきゃいけない。
もう、誰かさんの黒い引力に取り込まれて、自分を見失いたくはないのだ。
 
う〜〜〜むと頭を抱えるあたくしに、
「あなたが難しいことをやり遂げようと頑張っているのは分かるよ?」
と、先生はねぎらいの言葉を掛けてくれた。