心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

800% slower!

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その日のカウンセリングで、あたくしは開口一番、
「仕事に追われるあまり、自分は職場の空気中に拡散しそうです!」
と訴えたのだ。
この「空気中に拡散しそう」っていうのは、自分にとっては非常に的確でリアルな表現。
何だか自分がいなくなっちゃいそう!

「ちゃんと、リラックスできてる?
 休日は写真撮ったり、レトロなカメラを弄ったりしてる?」
と、カウンセラーはあたくしの慣れない労働の日々を気遣ってくれた。

「ちゃんとお休みの日はお友達と会ったり、
 夫とお散歩行ったりしているから、多分、大丈夫」
「ふうん、お散歩中はどんな話するの?」
「あのお家、可愛いね、とか、川にクラゲが浮いているね、とか、
 そんな、当たり障りのない話」

カウンセリング中の他愛もない会話。
でも、どこかに自覚しきれない地雷が埋まっていたらしい。
「…だってさぁ、夫は仕事の話なんか聞いてくれないもの!」
あたくしは次第に愚痴り出した。
 
「わたしはもっと深い話をしたい!
 だけど実際は、当たり障りのない話しかできない!
 文句言うならお金あげるから働くの辞めて?って言う人ですよ!
 唯一のコメントが、
 “その歳で新しい業種にチャレンジするなんて偉いよね〜”ですよ?」
「あれ、それ嫌かな?」
「嫌ですよ! そんな上から目線!」
 
 
 
何でこんなに怒るかな? 自分。
「だけど、今はいいんです。
 親身になって無理するな、と言ってくれる友人がいますから!」
いいんです、って言いながら、あたくしは全然良さそうじゃないのである。

「まるで他人行儀! 夫婦じゃないみたい!」
「あなたのいう夫婦ってどんななのよ?」
「わたしはもっと、心身の距離の近さを求めてるんです」
 
ハグしたり、他の人には言わないことようなことも話したりね。
だけど、夫は心の距離だけでなく身体的な距離も保たないとダメな人だから。

夫は、うたた寝してるところを起こそうと、肩にちょっと手で触れただけで、「ひゃあ〜!」と驚愕して飛び起きる人なんである。

「あなたの旦那さんは、そういう人なんだよ?」
カウンセラーには何度か説得されたけれど、まだ自分の親の時の様には、夫のことを受け入れられない。
「2人しかいない部屋で、妻が触れているのに…」と、あたくしはその都度傷つく。
あたくしの心の中には、この世のどこにも存在しない、幻の理想の夫が居座っているのだ。

夫はよく、これ見よがしに「あぁ、シンドイ」「死にたい」と言うが、では「お聞きしましょうか?」と水を向けても「“死んでも”話したくない」と決して核心に触れさせようとしない。
あたくしから見ると、夫は助けを求めているように見えるのだけれど、いつも「助けは無用」と言い放つのだ。
寂しい。無茶苦茶寂しい。
 
 
 
自分には罪悪感があると、先生に告白する。

夫の鬱に気付くことが出来なかったこと。
自分の間抜けさとか、気付きの足りなさとか。
“私って、そんなに信頼されてないのかな?  打ち明けづらいのかな?”と、落ち込んだこと。

「…あのさぁ、
 何でも自分のせいにするのやめてくんない?」

愚痴るのにヒートアップしてしまい、ハッと我に帰ると、先生の顔が不満気にムクれてる。
そうでした、自分をダメダメと言うのは、先生が1番嫌がることだよね…

「あなたさぁ、ここでもこんな感じだし、全然、話しづらい雰囲気とかじゃないから!」
こんな感じって、どんな感じなのよ?(笑)と思いつつ、あたくしは先生の愛情を素直に受けることにした。

「どんな時も自分が感じていることを大切にして。
 たとえ“これは私の本意じゃないのにな”と、思うことでも、
 仕事としてやらなきゃいけないこともあるけど、
 自分の信念と違うことやるの辛いけど、
 絶対に自分の感じたことは大切にしてね。
 そうしたら、あなたはいなくなったりしないから」
 
いつしかお話は、夫への愚痴から、ちゃんとあたくしのお仕事に戻っていた。
 
最近、朝の通勤電車で、YouTubeの“800% slower”というのを聞いている。
それは、いろんな曲…クラシックやビートルズ宇多田ヒカルや、ありとあらゆる曲を、8倍ユックリと流している音源なのだ。
それらはすでに原曲を留めず、不思議なノイズとかチベット仏教の念仏みたいになっちゃってる(笑)。
これを聞きながら、軽く目をつぶり、漠然とした不安をなだめながら、あたくしは職場に向かう。
 
焦るな焦るな、ユックリ行け。
自分がいなくならないように。
そうして、あたくしが出会う全ての人を、ありのまま冷静に見られるように。