心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

心の中にもリアルな世界にも、いるよ?

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先々週から働いているのだった。
カウンセラーではないけれど、とりあえず相談に乗ったり励ましたりする役割を行う仕事に就いたのだ。
とはいえ、まだ、何にもできないので、人の顔と名前を覚えるよう努力し、与えられた雑務を必死こなしている。

正直言って、2年ぶりの就労は、ごっついヘヴィである。
緊張しまくり、週末になったら、やっぱりアルプラゾラムの力を借りてしまった。
情けない話だけれど、カウンセリングに通っていなければ、入社一週間で果てたかもしれない。
そうなったら、最短記録を作るところだった(笑)。

今回心掛けているのは、「仕事を持ち帰らない」こと。
退社するときは、何もかも全部ロッカーにぶち込んで帰る。
通勤電車の中では1ミリたりとも仕事のことを考えないように心掛ける。
分からなかったこと、出来なかったことを、家で反芻しない。

「それはいいね」とカウンセラーの先生は激しく同意し、アドバイスをくれた。
「自分の時間まで仕事に使ってしまわないように気を付けてね」

 
 
そう、病を得るまで、あたくしは仕事大好き人間だったのである。
そもそも仕事と遊びの区別が付いていなかった。
かつてのあたくしは、残業も徹夜も文化祭の前夜みたいに楽しかったのだ。
それは遥か昔の事だけど、今思えば、それも充分ビョーキだな。
あたくしは、そんなビョーキ状態にずっと戻りたかったんである。
 
それから、病気の再発を繰り返してからは、行く先々の職場で何とか役に立つ人間であろうと努めた。
自分のウィークポイントのことはひた隠しにして、ソツのない人間であろうと心掛けた。
そうして、自分がどういう人間なのか、何を感じているのかドンドン分からなくなってしまったのだ。

「これからはさ、自分の健康のことだけ考えて働くといいよ。
 人の期待に応えようとか考えなくていいんだよ?」
 
先生の言う通り、そうできたらどんなに良いだろう。
しかし、今度のお仕事は人間相手だから、その辺、ちと厄介とは思うが。

「ぼくもさぁ、休みの日とかにあなたのこと思い出すことあるんだよね」
えっ、ホント?
「だけど、そういうときはすぐ止めて、後でまとめて考えるんだよ」
それが大切なのだと、先生は言った。
自分の為の時間と、人の為に働く時間をキッチリ分ける。
気持ちの切り替えが、心の健康を守ってくれるのだと。
 
 
 
その日のカウンセリングは、あたくしがのっけから「励ましてください」とオーダーしたので、先生は全力で鼓舞してくれたのであった。
でも、いくら持ち上げてくれても、自分の反応はイマイチ不安気なのである。
正直、いつまで仕事が続けられるか自信がない、と打ち明けた。 
 
「あのさぁ、聞いているとさぁ、心配する必要なんてないのに、ワザワザ心配しているように見えるんだけど!」
先生は明らかに焦れた口ぶりで言った。
「何が心配事なのよ? 大丈夫でしょ? もう一回心の中のおじいちゃんを思い出して?」
そうですね、そうですね、と言いながらも、あたくしはどこか歯切れが悪いのだ。
 
「あの、あのですね、お願いがあって」
思い切って、あたくしは言う。
「安全基地の中に、先生にもまだ居てもらっていいでしょうか?」
失敗しても絶対に失望したり怒ったり愛の返上をしない存在…すなわち母性の象徴である母方の“おじいちゃん”の他にも、あたくしには必要な人がいるのだ。
 
「自分に危害を加える人に会った時、守ってくれたり、一緒に怒ったりくれる存在が必要で…」
あたくしが求めてるのはそんな父性の象徴なんである。
先生は、パッと見、全然強そうに見えないけれど(笑)、怒ったらそれなりに怖そうだし。
 
そんな風にお願いしながら、いや、よく考えたら、これはあたくしの妄想なのだから、許可なんか取らずに勝手に安全基地に架空の先生を置けば良いのだろうに…ともボンヤリ思う。
「この歳になってお恥ずかしいのですが…それを、先生にお願いしたくて」
 
この部屋で、自分の魂は小学生くらいの女の子になってしまってる。
「怖くて、怖くて」と、ピィピィ泣いている。
 
 
 
「歳なんか関係ないよ?」と先生は言ってくれた。
「もちろんそうしてくれていいし、現実のボクもあなたを守るし、一緒に怒るから」
 
こんなの、言葉遊びかもしれないけれど、あたくしはそれを聞いてやっと安心したのだった。
現実に今の職場に嫌な人がいる訳ではないのだ。
 
だけれども、いつか誰かに傷つけられるのではないかと、漠然とした不安に苛まれていたのだ。
そうして、そうなったら、たった一人でそれに耐えなくてはいけないのだと、恐れていたのだ。
 
「そうじゃないでしょ? 今のあなたは一人じゃないでしょ?」
先生、それは知っているよ。
今の自分には良い友達もいて、何かあれば、きっと共感してくれるし助けてくれる。
 
でも何かもっと確実な安心感を求めて、あたくしは先生に助けを求めたのだ。
無理矢理に「助けますよ」と言わせたのだ。
 
「リラックスしてよ〜! そうじゃないと、あなたらしさが出ない」
先生は嘆いた。
 
助けを求められるようになった自分に、少しは自信を持たなくてはいけないよね?