心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

青い空に雲流れる。

f:id:spica-suzuhazu:20180222191544j:plain

カウンセリングの日はみぞれ混じりの寒い日だった。
持って行こうと思っていたRICOHのAUTO HALF Eは、もうちょっとキレイにしようと蓋を外して掃除して再び組み立てたら、またもやシャッターが降りなくなっただけでなく、ネジではない謎の小さな部品が一個余ってしまった!
急遽、別のAUTO HALF Eと、前回話に出たドイツカメラをカバンに入れてお邪魔する。
 
今日は前回の面接に関して一言謝るところから入ろうと決めていた。
「先日お話したカメラに付いてるマークの件、
 家に帰ってみたら、
 かなり記憶と違っててビックリして…」
 
え、何、何? と先生は目をパチクリする。
 
あたくしは持参したドイツカメラを差し出す。
「アヤフヤな記憶に乗っかって、泣いちゃうなんて、
 自分、なんてイイ加減なんだろう!と、
 これはいかんな〜と、思いまして」
 
先生は興味深げに、ドイツカメラのレンズ周りをシゲシゲと眺めたり、ファインダーを覗いたりして耳だけ貸してくれてる。
そうそう、今の自分は恥ずかしがっているので、それくらいで丁度いい。
 
「僕、そんなの全然気にならないけど?」
と、先生は言った。
「人間の記憶ってさぁ、いい加減なんだよ!」
いつもの、アハハッ♪って感じである。
「人間の脳って、盛っちゃうんだよ! 謝ることじゃあないよ!」
 
 
 
最初の面接で、先生は「言いたくないこと、まだ心の準備ができてないことは、言わなくていい」と言ってくれたのだ。
この一言は、セラピーと称して何やら無理やりこじ開けられるのでは?と不安だった自分をとても楽にしてくれた。
それならば嘘を付く必要なんかなくて、いつでも本当のことだけ言えばいい。
そんな夢の空間、今まであっただろうか?
だからその時は、先生の前では出来る限り本当のことを言おう、と思ったのだ。
 
それなのに自分は、前回のカウンセリングでは咄嗟にいくつも嘘を付いたのだった。
 
酷いことに、自分はヤケクソになって怒り丸出しで、こんなことまで言い放ったのだ(会話の流れの詳細は、省く…)。
「わたしは、愛のないセックスなんて、今まで一度もしたことないですよ!」
 
はい、ダウト!
これまで自分の悲惨な恋愛話を先生に散々聞かせておいて、どの口が言う!なのです(笑)。
 
でもその時の先生は、自分に対して“嘘を付いてますね?”と突っ込んだりはせず、小学生みたいに「へぇ? それは良かったですねぇ!」と、不満気に口を尖らせたのだ。
 
 
 
屋外での樹木調査の仕事は済んで、今は事務所でそれをデータ化している段階。
一日中、パソコンで数字を打ち込んでいると、あまりに単調で脳内に別の思考スペースが出来てしまう。
そうして、仕事の間じゅう自動思考の虜になってしまうのだ。
 
ここ一週間ばかりはずっと「何故、あんな嘘を?」と自問自答していた。
「嘘を付いてまで、人の気を引きたい訳?」と自分に憤ったり、「何?あの先生の返し、子供っぽすぎる! もしかして自分のあまりのしつこさにウンザリして、テキトウしてる?」と“疑心暗鬼の嵐”に陥ったりしていた。
 
そうして、あたくしはしょうもないことに何度も何度も頭の中で
「わたしは、愛のないセックスなんて、今まで一度もしたことないですよ!」
「へぇ? それは良かったですねぇ!」
を、映像を交えリピートしたのだった。
 
ある日の午後、静かな静かなオフィスで、そのリピート無限グルグルをしているうちに、突然それらが全て滑稽に思えて、顔中が笑顔になってしまった。
あたくしは、その思い出し笑いを堪えるのに必死だった。
普段あまり動かさない口角の筋肉がギューっと上がるのを感じて、「自分、笑ってる」と自覚したら、目も少しウルっとなった。
 
その時、脳内にバーッと青空が広がって、上空は空気の流れが激しいのか、ちぎれ雲がドンドン流れているのが、見えた。
自分の大好きな世界。
見ていると逆に、自分がゆっくりと倒れ込んでいくような錯覚に陥るあの風景!
 
自分の心は移り変わってる。
同じものを見ても、泣いたり笑ったり、クルクルと変わるんだ!
 
「…そういう訳で、わたしの心は常に移ろっていることに気付いたのです」
と、あたくしがご報告すると、
「あ、それ、いい気付きですね〜」と先生はニコリとした。
 
そうしてその日の先生は、
「カメラ持ってるんだからさ、写真撮ってくださいよ」
と、あたくしにしきりに奨めたのだった。
植田正治の世界 (コロナ・ブックス)

植田正治の世界 (コロナ・ブックス)

 

 ※日本の写真家の中で一番好きなのはこの人。オシャレすぎて怖い世界。そこにあるのは紛れもなく過去の幻なのだけど何やら新しい。一番好きとか言っておいて、実は他にあまり知らない不勉強なあたくし…(笑)。写真を撮ったら?と言われても、自分はどんな世界が好きなのか? …まずはそこから始めなくてはいけないの。