自分の大切な気持ちを尊重する。
正月の帰省から、我が家に帰ってきた。
いつものように慌ただしく、そうして、いつもよりも少し疲れたらしい。
しかし、表向きはよい正月にまとめることが出来たように思う。
術後の経過が思わしくなく母の足の調子がイマイチなので、旅館での年越しは止めて、今年は実家で過ごした。
お取り寄せお節に、鍋や刺身の盛り。集まったみんなでビデオ鑑賞した。
母にはスマホをプレゼントした。
お金を持っていても、もう、店員が喋っている内容を理解することができないのだ。
でも、スマホは欲しい。
入院したら、他の人がみんなスマホを持っていたから、欲しくなったというのだ。
それはいい。それはいいのだが…。
母にスマホの文字の打ち方と電話の取り方を教えるだけで、お正月は終わってしまったよ!(笑)
健康維持、ボケ防止とさえ言えば、高齢者のモチベーションは上げられる。
そうして、あたくしはいささか鬼軍曹すぎる。
どんなに押さえ込もうとしても、ついウッカリ、ゆらりと怒気が出る。
「もう少し優しく教えられないのか?」と自分に問う自分に、
「優しく教えられたことなどないから分からん!」と言い訳する自分がいる。
他人にだったら冷静に優しく何度だって言えることが、どうして身近な人に対すると、こうなってしまうのか。
自分で言うのもナンだけど、お仕事してた時は、結構優しい先輩してたのに。
この正月は不思議なことに、母に辛く当たる度に、自分が子供の頃に叱られた時の、気持ちだけを思い出していた。
どういう状況なのか、ディテールは思い出せないのだけど、例えばお漏らししてしまった時とか、晴れ着を汚した時の、あの穴があったら入りたいような、逃げ場のない辛い気持ちを思い出していた。
怒りを感じているのは自分の方なのに、怒られている時の気持ちを味わうのも自分なのだ。
これ、カウンセリングの効果なのかなぁ?
未だにあたくしの好物を知らない母、自分らで準備するから正月の買い物はしないでおいてくれと、あれだけ頼んだのに聞き入れず、いろいろと買い込んでいた父。
「何を買ったか正直に全部言って!」(田舎の家だから、隠し場所がたくさんある)
「ナマモノはもう、持ち帰らないからね!」(例年、食べきれなかった食材を帰り際に持ち帰らせようとする)
些細なことでワアワア言い出すあたくしを、両親は扱いかねている。
不幸中の幸いは、エキセントリックなのはあたくしだけで、弟夫婦もあたくしの夫も白鳥の如く優雅に振舞い、楽しい正月としてその場を盛り上げてくれた。
しかし、わたしの怒りはそれだけでは終わらない。
皆が寝静まってから、カウンセリングの教科書を開いて試験対策をしていたら、母が「あなたはお勉強が好きなのねぇ」と言う。
この言葉が地雷なのだ。
「お母さんさぁ、わたしのこと“頭が悪い”って言ったの覚えてる?」
「何で、そんなこと言ったんだろうねぇ?」
「高校に入って最初の成績が45人中40番だったんだよ。それでね、“それじゃあ、バカだね”って言ったんだよ?」
「全く覚えていない。本当にそんなこと言ったのかい?」
「うん、その時、“わたしは絶対に忘れないから、今のうちに謝っておいて”って言ったんだよ?
だけど、お母さんは“わたしは間違ったことは言ってない。クラスで40番は頭が悪いってことだよ”って、また言ったの」
ずっと以前からそうなんだけど、母は都合の悪いことは聞こえなくなってしまうし、本当に忘れてしまう。
この話だって、告白するのは初めてではないのだけど、何度話しても初めて聞いた話のように心からビックリする。
「間違えて傷つけてしまうことは、誰にでもあるじゃない?
誰しも不完全なんだからさ。
大切なのはさぁ、間違えたと思ったら、素直に謝ることだと思うの。そう思わない?」
したり顔で何十年も前の話をネタに、母に説教するイヤラシイ自分。
自分ではあまり自覚がないけれど、これは復讐のつもりなのか?
「毒親」という大嫌いな言葉があるけれど、あたくしは「毒娘」じゃなかろうか?
自分の好きなこと、嫌いなこと、過去の悲しい出来事…何度言っても、理解してもらえないわけだし、記憶にさえ残らないのだから、もう諦めちゃえよ自分、という声がする。
分かってもらおうと思うの辞めちゃえよ、大人になれよ、という声がする。
でも、怒りの奥底には悲しみがあることに、今のあたくしは気が付いている。
それは「あなたにとっては大切な気持ちだから」と、カウンセラーの先生は言うだろう。
その悲しみを味わいなさい、と言うだろう。
この情けない気持ち、いい年こいての涙に何の意味があるのかは分からないのだけど、素直に味わおうと思った。
もうすぐ、いろいろなことがタイムアップを迎えようとしていることに、気が付いているのだ。
残された時間で何とか自分を分かってもらおうと、焦っているのだ。
どうしてこんなに理解されたいのか分からない。
「だけれども、決して否定しないように、あなたの大切な気持ちを」
正月から泣いてしまっているのだ。大切な気持ちを尊重すると、こうなってしまうのだ。
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※正月に持参して皆で観た映画。誰もさしたる興味を示さなかったので、どうしようかな…と迷ったものの、「わたしは皆さんとこれが観たいのです」と無理やり上映した。おじいさんが老猫と旅をする話。あえて「老い」をテーマにした名画をぶつけてみたのだけど、なかなか好評で、勇気を出してよかった。他の人がこの映画を忘れても、自分だけはこの思い出をずっと忘れないだろう。こんな風に人生の黄昏を生きてみたい。