心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

家出を妄想する。

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あたくしは片付けられない女なので、家はグチャグチャである。
かつては流行りの断捨離というものをして、段ボール箱いっぱいの不用品や衣類を途上国にセッセと送ったりしていたけど、お部屋はすぐに元に戻ってしまう。
 
頭の中が散らかっているから、リアルなあたくしの空間も散らかるのだ。
それを悟ってから、無理して片付けようと思わなくなった(笑)。
頭の中を片付ける方が、あたくしにとって優先順位が高い。
 
本当に大切なものだけ、すぐ取り出せるようにファイリングしたり、決まった場所に置くようにしている。
幸いにお洒落ではないので年齢と共に洋服は少なくなった。
好奇心だけは止まらないので、本やら紙切れは多くて、あたくしの部屋の机周りは本と紙束の塊が乱立している(「蟻塚」と呼んでいる)。
 
 
 
10年くらい前、離婚に至る直前、人からは全く共感されない理由で離婚を切り出すのにはどうしようかと悶々と考えたことがある。
で、家出を考えた。
夫婦共通の預貯金から大金を引き出す。そうだな、200万円くらいいっちゃおうか?
それを持って失踪しよう。当時は、その失踪先をフランスのパリ、と想定していた。
お洒落だからではなく、かつて旅行したことがあり、唯一、そこで暮らすことを想像できる外国だった。
それに、都会だからお金さえあれば、言葉が不自由でもそんなに困らない。
毎日毎日、オルセーやルーブルの絵画を舐めるように見てやれ、と思ってた。
 
そうして、お金を使い果たして、くたびれ果ててボロボロになって、ある日突然、家に帰ったなら、もう説明はいらないだろう。
余計なことは言わなくても、容易に離婚に至ることができるであろう。
 
それから、その失踪にはどんなものを持って行こうか割とリアルに考えた。
そうするとね、結構、持っていきたいものがあることに気づいたのである。
香水のボトルとか(当時、パニックの息苦しさからお気に入りの香りを嗅ぐことで逃れていた)、小さな動物の置物とか、フィルムを使うクラシックカメラとか、愛読書とか…。
あんまり実用的でない、結構重いガラクタばかり、どれを持って行こうか心の中で厳選して過ごした。
 
 
 
でも、それは結局、妄想で終わっちゃったんだよね。
当時、あたくしはお家でお仕事をしていたのだ。
たいした金額でないけれど、毎月納品するお仕事があった。
以前の会社の可愛い後輩が紹介してくれたお仕事なので、彼女の顔を潰す訳にはいかない。
そうして、失踪するのはかろうじて思い留まったのだ。
 
そうしたらね、浮気してしまったの。
本当に浮気。
つまらない間違い。
でも、後悔とかの気持ちは薄かった。
 
ここまで追い詰められて、こういう汚らしい、くだらないことをして、内心少しホッとした。
人から酷く軽蔑されるだろうが、これは解りやすい離婚の理由になるだろう。
ところが、たった一度の浮気を不思議とすぐに察した夫は「ごめんね、ごめんね」と泣いて謝り、「僕が悪かったやり直そう」と言った。
 
いや、そうじゃないだろう。
こんな女は張り倒して三行半だろう?
あんた、この5年間あたくしにやってきたことをよく考えて、それが改められるかよく考えたまえ?
「いや、そういう訳にはいかない、こんなことをした自分を許してはいけない。離婚しましょう」
と、あたくしは強引にまとめたのだった。
「やり直せなかったら、もっとあなたを憎むし、軽蔑する。だからすぐに離婚しましょう」
 
 
 
ところがだな、その時の夫の泣き顔は、その後、いつまで経っても脳裏から離れない訳だな。
そうして、あたくしを責め続ける。
遥かに強い立場の人が弱いものいじめをしてしまったかのような罪悪感をあたくしに植え付ける。
 
いや、自分はそんなに強くないっすよ。平凡な一人の女。
望んでいたものだって、そんなに贅沢なものじゃない。
本当に、ささやかなものだったと思うのだけど。
 
今は、自分が永遠に手に入れることができなくなったものをただ嘆いているけれど、もしかしたら、形を変えて自分に与えられるかもしれない、と僅かばかりの期待もしているのだ。
どんな形で? というのは分からない。
その時に、ちゃんと「これだったんだぁ」気付くことができればいいなぁ。
 
 
 
というのも、今、また、無償に家出がしたくなっているのである(笑)。
今度は、家の預貯金には手を出さないし、ガラクタも持って行こうとは思わない。
あれから10年経ったら、削ぎ落とされてスッキリしたものが、自分にもあるのだ。
それに今ならワザワザ地球の裏側まで行かなくてもいい。
あたくしのいない、グチャグチャのままの部屋を夫はどんな気持ちで眺めるのだろう?
 
今、家出するなら、ノートパソコンとスマホと少々のお金があれば十分だな。
地方に出張に赴く、くたびれた会社員みたいな風情で家出しよう。
一冊だけ文庫本を持っていきたい。池澤夏樹の『スティル・ライフ』だ。
あたくしにとっては、何度読んでも飽きない、「無人島に持っていきたい一冊」的本だ。
 
最近『スティル・ライフ』を読んだらしい若者が、「村上春樹みたいだ」とコメントしていたけど、全然分かってないねぇ。
正直、そういうに人は『スティル・ライフ』を読んで欲しくないし、語って欲しくない。
あの繊細な文章が味わえないような味覚音痴は、『ノルウェイの森』を何度も読んでいればいいのだ((笑)あたくし自身も『ノルウェイの森』は嫌いではなく、むしろ好きですが)。
 
…脱線しましたが、あれもこれも全て妄想ですのでご安心下さいませ。
今はカウンセリングで安全基地を心の中に作っている最中で、逃避したりどこかに新天地を求める必要なんてないことは、ちゃんと分かっているのですから。
そうして、今は自分のいる場所にも愛着を感じ始めているのだから。
 
今日は待ちに待ったカウンセリングの日で、あたくしは先生と何をお喋りしようかとアレコレ考えていたりするくらいだから、大丈夫。
燃料切れかけで墜落寸前の飛行機みたいなあたくしは、ヨロヨロとカウンセリングという小さな空港にやっとこさ着陸でき、しばし給油と休息ができる。
スティル・ライフ (中公文庫)

スティル・ライフ (中公文庫)

 

※書いてしまってから「いや、電子書籍にすれば、文庫分一冊分だけ荷物が減る」と思ったのだけど←これも妄想(笑)、あたくしはこの文庫分を装丁も含めて愛しているのだった。それに、この本は表題の作品も素敵だけれど、もう一つのお話「ヤー・チャイカ」も併せて読むのがオススメなのである。独特の世界観。もし、読み終わった後の世界の静寂を共有できる人がいたら、このうえなく幸せ。