心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

不安障害のリハビリで、ニッチな言語を学ぶ。

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自分の場合、失敗する恐れがものすごく強いのだ。
ある朝突然、布団から一歩も出れず、会社に行けなくなる恐怖の正体は、恐らく「失敗するかもしれない不安」だ。
いくら「全く失敗しない人はいない」「むしろ失敗するのが正常」と脳で考え、自分に言い聞かせても、それは虚しい努力だ。
失敗が人を成長させるとも言える。失敗は全て悪いことではない…のも知っている。
 
半世紀生きれば、今までの社会経験で世の中の失敗はたくさん見てきているし、自分もやらかしている。
大抵の失敗は、死にそうな気持ちになるけれど、死にはしない(笑)。
不幸にして、本当に亡くなってしまう人や、取り返しのつかないことになることもあるけれど、大抵は時間が解決してくれる。
だから、「失敗」→「即、死」に繋がらないことは、理屈では分かっているのだ。
 
だけど、上手く言えないのだけど、たとえアルバイトでも緊張感が強くて、労働はダメそうなのだ。
以前は何ともなかったことが、怖くてたまらないのだ。
 
そこで今、ニッチな言語を学んでいる。
 
語学教室は費用もかかるし、使えない言語は単なる娯楽で、労働の対局チックな行為だけど、実はこれがあたくしの社会復帰の第一歩なのだ。
つまり、リハビリ。ご学友はそれを知らない。
 
留学生を支援する団体が主催する語学教室だと、比較的安価で、ゆるい雰囲気で学ぶことができる。
これが英語なんかだと、変に使える言語だったり、学校でちょっと勉強してたりするから、きっと緊張する(笑)。
教室によっては、お仕事とか積極的な自分への投資として来ている人もいるだろう。
その点、ベトナム語はいい。
そういう意味で、ギラついた感じとは無縁の言語。
 
 
 
まず良いのはアルファベットが基本となる言語だという点。
しかもベトナム語では使わない文字もあるから、字数は少ない。
そうして、ベトナム語は、お隣りの中国語同様に“声調”と呼ばれる、音が上がったり、下がったりのアクセントがあるのだけど、これで同じ綴りの言葉の意味が変わるから大変なのだ。
だけど、それはアルファベットの上に記号が付いているから、見て発音できるようになれば大丈夫。
 
残念なことに母音は多い。「A」だけで3種類ある。これに5種類のアクセント記号が付くから、「ア(正確には“アー”と伸びるのが基本)」だけで15パターンある。
でも、これは根性で覚えられるレベル。
意味はともかく、読むだけなら、先生から発音のご指導をキッチリ受ければ、何とか行き着けるだろう。
 
文字だけで言うと、ヒンドゥー語とかタイ語とか、スリランカシンハラ語みたいにユニークすぎる文字だと、ほとんど読めないうちに挫折することがある(経験者)。
 
そして、中国語の言葉が緩やかに入ってきているので、日本語と殆ど変わらない単語に時々出会えるのがいい。
例えば、日本語の「発展」はベトナム語では「ファッ ティエン」となる。似てる。そんなのがたくさんある。
 
確かなことは分からないけど、ベトナムの言語には固有の文字はなく、中国の漢字を拝借して公的な記録を残してきたそうだ。
その辺、日本の言葉始めに似ている。
ベトナム人の名前の由来も、漢字に行き着くらしい。
(例えば、ハイさんだったら漢字では「海←シャンハイの“ハイ”」になるらしい)
日本語と異なるのは、ベトナムの場合は後からフランス人が入ってきて、識字率アップを狙って漢字を廃しアルファベットを導入したことだ。
一方で、お寺や史跡などには漢字がいっぱいだけど、漢字は捨ててしまったので、それらは一般ベトナム人には読めないそうだ。
 
どの言語も一定のリズム、音色があって、美しいけれど、ベトナム語の流れは速く、軽妙さが美しい。
最初は全く聞き取れないのだけど、「あ、今、何か言った?」って感じで、それがいつしか少しずつ分かるようになる。
音が言葉に変わった瞬間の驚きと喜び。これはニッチな言語の場合、ひとしおだ。
 
 
 
ところが、こんなに楽しいのに、あたくしは時々、不安に襲われてベトナム語教室に行けなくなる。
その日は朝からソワソワして、日が暮れるまで「外に出られるかどうか」悩む。
お風呂に入って身体を温めたり、お昼寝をしたりして、何とかリカバリーを試みる。
他の人はお仕事帰りに教室に参加しているのだ。宿題もちゃんとやってくるし。
ただ、身体一つエイッと家から出るのが、なぜこんなの困難なのか?
 
ベトナム語を完璧に知っていたら、ベトナム語を習う必要はない訳で(笑)、要するに「間違えるため」に教室に行っているようなものではないか?
そして、たまに上手く発音出来た時に、小学生のように褒めてもらうのも懐かしくてちょっぴり嬉しいものだ。
そこには誰も怖い人ではない。恐ろしいことも起こりそうにもない。
むしろ、行ったら絶対に楽しい。
 
ベトナム人留学生の先生は若くて可愛らしく陽気で、日本語がペラペラでベトナムのリアルで楽しい話をたくさんしてくれる。
 
それでも行けないのだ。
すみません「風邪ひきました」と嘘を言って休む。
教室の人は、あたくしを身体の弱い人と思っているだろう。
 
学友が、「大丈夫? 今日、すごく面白かったのに!」とノートの写しをパソコンに送ってくれる。
新しい友達も、このニッチな言語を学ぶことで得た宝物だ。
 
世界は楽しい、美しい、間違えても大丈夫!
 
間違えると、可愛いベトナム人の先生は「ぶっはっは〜」って堪えきれず笑うんだよね。
ベトナム語、発音間違えると、とんでもなく汚い言葉になっちゃったりする訳。意図せず、チ○コとか言ってたりするの(笑)。
そうそう、そこ怒るところじゃない。笑うところだよね。
 
これは、まずはリハビリなんである。自分の中に出来た、不安の恐怖の回路から抜け出す為の。
 
運良く1年続けられ、ここはリハビリ以上の場所にもなりつつある。
 
この教室がいつまでも続きますように。あたくしが続けられますように。
切に願うのだ。
ニューエクスプレス ベトナム語

ニューエクスプレス ベトナム語

 

 ※独学には難しい本ですが、気の利いた表現満載の、噛めば噛むほどのスルメ的に良くできたテキストです。ベトナム語、ニッチと言いましたが、ベトナムからの留学生、研修生、観光者が増え、そこそこ需要が出てきたあたりが、意味もなくあたくしの緊張感を高めていたりするのだった! ホント、意味のない不安だ(笑)。