心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

催眠療法の前にも、まず傾聴、まず受容。

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カウンセリングは安全な空間で行うこととはいえ心をいじくる行為なので、その後、何やら落ち着きがなくなったりする。
感受性が暴走して涙もろくなったり、昔のことを思い出したり、突然、何かに気が付いたり。
 
そうして、こんな風に自分の心が制御しにくくなると、「あたくしは何かされたんじゃあないか?」とカウンセラーへの疑いの念が出てこないでもない(笑)。
例えば、何か「暗示」をかけられているとか!
そうして、一生懸命思い当たることを探すのだけど、こんなド素人に見透かされるようではそもそも暗示になりゃしないだろうし、日頃「操るのは嫌い」と言っているカウンセラーの方針と異なるので、本当に何もやっていないと思う。
心の揺れ動きが自分の内側から生じているということを認めたくないゆえに「暗示にかけられている」なんて妄想をひねくり出すのだ。
この情緒不安定は、多少操られていると考えた方がプライドが保てるのか? そう考える自分の感覚も不思議だ。
 
 
 
著名な催眠療法士、精神科医として知られるミルトン・エリクソンに関する本を読んでみた。
『ミルトン・エリクソン心理療法 <レジリエンス>を育てる』
ダン・ショート ベティ・アリス・エリクソン ロキサンナ・エリクソン-クライン 著
 
自己暗示などで自分の「不安障害」を制御できたらいいな、くらいには思ったことがあるけど、実はあたくし、催眠療法という言葉に漂ういかがわしい印象にはどうも抵抗感がある。
心理学のテクニックを応用した、怪しくて高額な自己啓発セミナーみたいなのでもチョイチョイ、エリクソンの名前が登場するので、あたくしはものすごくエリクソンにも催眠療法にも偏見を持っていた。
そうしてあたくしは勝手に「ミルトン・エリクソンはキレものでテクニシャンだけど、人を操る悪い人」と思い込んでいた。
 
それでもこの本をあたくしが手に取ったのは、タイトルに「レジリエンス」とあったからだ。
レジリエンス」は、逆境から立ちなおる力のことで、トラウマ治療のキーワードの一つなんである。
カウンセリングの初回で先生から「あなたのレジリエンスを回復させるにはどうたらこうたら…」と聞いたことがある。
 
でも、読み進む中で見えてくるエリクソン像は全く違ってた。
 
エリクソンは幼少期に患ったポリオと生涯戦った人なのである。全身麻痺も経験している。
思うにエリクソンは、最初のクライエントは自分自身であり、自分で自分の身体を操作する術を、闘病やリハビリを通じて編み出したんじゃないのだろうか?
エリクソン催眠療法には、肉体的な弱者であった彼の体験が大きく影響している気がする。
 
そうして子沢山のお父ちゃんでもある。
結婚には一度失敗しており、前妻の子供3人の親権を取って、再婚後さらに5人の子供の父親になっている。
彼が自宅兼用の診療所を構えた時には、常に身近に子供の気配がし、時には「ねえ、ちょっとおいでよ」と、自分の娘などを仕事場に呼んで、巧みに催眠療法のお手伝いさせたりしたらしい。
また、これがセラピストとて適切な態度であるかはさておき、クライエントと家族ぐるみのお付き合いをすることもあり、それはエリクソンが亡くなった後も続いたそうだ。
 
 
 
エリクソンは「わたしは催眠にかかりにくいですよ」という人の手だって、ピタッと動かなくしちゃうような、催眠の名手。その技は独自に編み出したそうだ。
そんな風に人を操るテクニックを手に入れたら、誰しも欲深くなって、例えばクライエントに“おいた”してしまうとかね、ダークサイドに堕ちるような気がするのだけど、エリクソンは例外のように感じられた。
(もっともこの本は、共著者の中に彼の娘さんが二人も参加されているので悪いことは書いてないだろうけど)
 
だって、エリクソンはその力を、夜尿症の治療に使うわけ(笑)。
20世紀のエリクソンの時代は、どんだけ夜尿症の人が多いんだ!っていうくらい夜尿症治療のケースが出てくる(笑)。
子供のだけでなく、大人の夜尿症も登場する。
 
その他に紹介されるケースも、うつや妄想などに加え、ダイエットとか、ニキビ治すとか…豊かなアメリカ時代のノンビリとした空気を感じさせるような「のどかな」エピソードが登場する。
もちろん、その時代の当人達には切実な悩みであったに違いない。
 
催眠療法は、根性や論理的思考といった表層的な思考ではどうにもならないような問題に効果を発揮する。
そうそう、現代に応用できそうな例としては、疼痛緩和がありましたよ。
本で紹介されていた例は、癌による痛みの緩和だったけど、それに加えて現代に多いストレス性の原因不明な疼痛にも応用できそう。
 
読み物としては本当に面白い。ほんの半世紀くらい前の話とは思えないほど、浮世離れしたファンタジックな世界だ。
ああ、こんな風に悩み事が解決したら、いいなあ〜、めでたし、めでたし、っつう読後感だな。
向精神薬がまだ普及しきっていなかった時代だからかもしれない。
人による治療って温かくていいなぁ〜って感じだ(笑)。
 
残念ながら自分のトラウマ治療に応用できそうなものは見当たらなかったけれど、少なくとも、エリクソンが「悪いテクニシャン」ではなく「優れた臨床家」であったことはよく伝わってきた。
彼のモットーはまずはジックリ傾聴し受容して、クライエントが何を求めているのか理解しようと試みるのだ。
親に連れて来られた子供がクライエントなら、まずは子供目線にまで下がって優しく語りかける。
 
そうして、そもそも完璧に治すなんてエリクソンは目指してない。
エリクソン催眠療法を使って目指すのは、クライントが自力で苦痛を減らすようになる、そのきっかけ作りなのだ。
結果「自分でできたわ〜」と思えるから、クライエントには自信が生まれるし「レジリエンス」も生まれるってもんなのだ。
エリクソンにはクライエントを魔法使いに依存させない優しさがある。
 
 
 
ただし、下衆な話だけど、エリクソンの治療費はかなりお高かったんじゃないかと想像してる。
だって、8人の子どもを養わなきゃいけなかったワケじゃないですか?
それに、娘さんの一人が現在同業者として結構高額なセミナーの講師をして、それ見ていると随分と怪しい香り漂う…。
娘さんはよもやダークサイドには堕ちているのではないだろうか? とあたくしは考えた(笑)。
 
ヨガとか気功の世界もそうなんだけど、ある程度の域に達して、更なるパワーか心の美しさか?の二択問題になると、大方パワーの方を選んでダークサイドに堕ちちゃうもんらしいですよ。
 
ミルトン・エリクソン催眠療法のエッセンスを学んだ人々が、それを使ってどんなお仕事しているかは知らないんだけどさ、願わくば、自身の手法のマニュアル化を好まず、個人と向き合おうと努力し続けたエリクソン先生の高い志は忘れないでいて欲しいな。
ミルトン・エリクソン心理療法: 〈レジリエンス〉を育てる

ミルトン・エリクソン心理療法: 〈レジリエンス〉を育てる

 

 ※Amazonの評判も上々な本です。あたくしは例によって図書館で借りて読みました(笑)。次はエリクソン先生の本格的なテクニックの本を読んでみたいですね。