心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

トラウマにならなかった話。

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※今回、犯罪被害の話ですので、フラッシュバック等、心配ある方は読まないで下さい。
 
恐らく25歳位の時のこと。だから20年以上前のこと。
残業でとても遅くなり、同僚に車で送ってもらった。
当時住んでいた団地の敷地内で車を止め、少しお喋りしてから、車を降りた。
「バイバ〜イ、また明日」
車を見送って自宅のある棟に向かおうとした時、車が走り去った道路の向こうから男の人がこちらに駆けて来た。
 
こんな夜更けに人を見かけるなんて珍しいことだとボンヤリ思ったが、次の瞬間、自分は咄嗟に持っていた書類カバンを芝生の上に放り投げた。
男が手に長さ20センチくらいの鉄の棒を持っていて、それが振り上げられるのを見たのだ。
身体というのは実は勝手に動いていて、脳が瞬時に後からその動きの理由付けをしている、という脳科学的な話を聞いたことがある。
その時の自分はまさにそうで、自動運転モードに入っていた。
振り下ろされた鉄の棒(少年雑誌の通販で売っている警棒のようなもの)をあたくしは両手で受けた。
 
顔を見るとニキビだらけの18歳くらいの子供なのだ。
「なんと生意気な!」と咄嗟に怒りが出た。
2〜3発食らったのだが、不思議と自分は痛さも怖さを感じず、怯まずに揉み合いになった。
そうして、相手の手首だか襟元かを掴んだまま、あらん限りの声で叫んでいた。
「だずげで〜〜〜!」
団地中に響かんばかりのデカイ声に、まずは自分で驚いた。
誰もが寝静まっているような時間で、どの窓の灯りも消えたままだったが、あたくしの大声は相手の戦意を喪失されることに成功したらしい。
「放せよっ!」とあたくしの手を必死に振り解き、そして逃げていった。
「待てぇ!」と、アドレナリンが出まくったあたくしは気丈にも途中まで走って追いかけたのである。
 
 
 
すぐに車で送ってくれた同僚のポケベルに連絡を入れ、引き返してもらった。
その足で最寄りの交番に行くと、お巡りさんが「あなたが誘ったのではないのね?」と確認してくる。
そうして、「どうしたいのよ? パトロール強化して欲しいの? それとも犯人捕まえて欲しいって話なの?」と聞いてくる。
もちろん、捕まえてって話じゃないですか?
「明日、病院に行って、診断書もらって来てね。話はそれから聞くから」と帰された。
 
当時、団地には両親と弟と暮らしていた。
家の前で殴られた娘に対し、両親は「遅くまで残業するからそんな目に遭うんだ」と興味がなさそうだった。
頭にたんこぶが出来ていて、鎖骨のところは青く内出血していた。
次の日病院に行くと、確か全治三週間。
身体中筋肉痛になっていた。どうやら、火事場の馬鹿力が出たらしい。
 
 
 
会社に事の顛末を話し、しばらく残業は控えめして、せめて終バスのある時間で帰りたいとお願いした。
事務職の女性達がものすごく盛り上がっていて、
「殴って気絶させて乱暴するつもりだったんだね」とか色々怖いことを言った。
彼女達のその想像力が怖かった。
そして、それを自分の前で、あたかも心配しているようで、実は楽しそうに言っていることもゾッとした。
 
時代的な話で恐縮だけど、当時その会社には総合職の女性はほとんどいなかった。
だから、自分がこんな目に遭っているのに、「これだから女には残業させられない。使いづらい」と言われるのをあたくしは恐れた。
今、思えば、かなり狂っているが(笑)。
 
結局、犯人は捕まらなかった。
「顔を見られているから復讐しにくるよ」という恐ろしい説も聞かされていたのだけど、自分の網膜にも犯人の顔がしっかり焼き付いているのだ(今も)。
当時は、どこかで見かけたらこっちが先に返り討ちにしてやる、くらいに思っていた。
 
しかし、そのうちに自分は事件を忘れた。
そして、ずっと忘れてた。
 
 
 
今、思い出して客観的に考えると、とっても怖い話だ。
多分、小僧じゃなくて、オッさんだったら、恐怖で凍りついていただろう。
鉄の棒が顔面にヒットしていたら、とんでもない大怪我になっていただろう。
鉄の棒でなくて刃物だったら、死んでいたかもしれない。
↑この辺、「全般性不安障害」の妄想が炸裂する。
 
でも、トラウマにはならなかったのね。
 
親は無関心だったし、警察は非協力的だったし、職場の一部の人は無神経だったのに。
 
その時は、たった一人で戦えたのだよ、自分。
 
 
 
それなのに別の事件ではトラウマを抱えてしまう自分がいるのだ。
取っ組み合いはなかったし、親は相変わらず冷淡だったけど、警察は犯人逮捕に尽力してくれたし、職場の人も気遣ってくれたのに。
 
何か、ガーンと来ちゃったんだなあ…。
 
そういう不均一、不思議だなあ〜〜〜。
 
 
 
カウンセリングの効果なのか、昔のことを突然、細やかに思い出したりします。良いことも悪いことも。
不思議だなあ〜〜〜人間の脳!