心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

「野の医者」とは何か?

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調子は相変わらずスッキリしないけれども、難しくない本なら読み進められる。ありがたや。

『野の医者は笑う』東畑開人著 読了。
 
この本は、若き臨床心理士である著者が、沖縄を舞台に様々な「野の医者」の治療を受けまくり、それらの体験を心理学やらその他アカデミックなキーワードを散りばめてつつも面白おかしく書いたノンフィクション。「野の医者」とは、ヒーリング等をお仕事としている人の総称で、著者の造語だ。要はスピリチュアルですね。
 
沖縄のスピリチュアルというと真っ先にユタを思い出すけれども、この本の中心はどちらかというと新興勢力を扱っている。
文化、貧困、いろいろな要因から沖縄という場所はスピリチュアルの需要が高く、国内では先進的なエリアなのだそうだ。
オーラソーマ(色水の入った瓶を使う)とか、マインドブロックバスター(いわゆるブロック外し)とか、これらが一体どういうことをするものなのか、この本読んでよ〜〜〜〜く分かったよ!(笑) 特にマインドブロックバスターに関しては、3日間12万円の講習を受けた体験まで披露している。
 
それらはイチイチ怪しく軽薄なんだけど、単純に胡散臭いで済まさずに、そこに何らかの気づきを得るあたり、さすがは臨床心理士!かな?
例えば、スピリチュアルによる癒しと臨床心理学の癒し、両者はどこが同じで、どこが違うのよ?と、考える。
この辺の疑問、すごいでしょう?
スピリチュアルをネタに「癒しって何?」を考察する本なのである。
 
著者は、医療人類学者クラインマンによる「説明モデル」という概念を挙げて、スピリチュアルと臨床心理学の共通点を挙げている。
治療者が「不調の原因はこうだから、こうすれば治る」といった説明で説得を試みる。その説得をクライエントが受け入れた時に、治癒が起こる。
 
治癒の本質はレトリック(人を説得する技術)であり、それを支えるのは信頼関係であるらしい……となると、臨床心理学やスピリチュアルの癒しの本質は、要するに、砂糖で出来た丸薬が効いてしまう「プラシーボ効果」ってこと?
もちろん臨床心理士の立場としては、臨床心理学の方は科学であってもらいたいわけだ。 
 
ただ、この本の焦点はあくまでもスピリチュアル。臨床心理学が科学であるかどうかはさておき、スピリチュアルが臨床心理学と異なる面に着目していく。
 
例えば、
・スピリチュアルは治癒に至る説明が一般的ではないので、たくさん説明が必要。施術者自身が「これで自分も治った」など自分語り多し。
 (ブロック外す→元気になる、など臨床心理学より独創的)
・スピリチュアルは施術者が施術をすればするほど、施術者自身が元気になる。ゆえに施術したがる。
 (臨床心理士はカウンセリングをたくさん行うとクタクタになる(笑))
・スピリチュアルは、治療が成功した結果、超ポジティブシンキングで毎日がミラクルな躁的Happyになる。
 (例えば精神分析の場合は、感情を真正面から受け止められるようになるのが治癒のあり方)
・「深層心理」という言葉を使ったらスピリチュアル。「無意識」という言葉を使ったら臨床心理学。
…みたいな。
 
そして、一番の大きな違いは、スピリチュアルは非常にシステマチックなビジネスモデルが構築されている点だ、と著者は気づく。
施術者は施術をするだけでなく、施術の仕方を教えるスクールを併設していて、クライエントに「あなたも施術者に」と誘う(笑)。
そして、施術者スクールの上位にインストラクタースクールを設置して、施術者となったクライエントに「あなたも先生に」と誘う。
 
要するに、どんなスピリチュアルも最終的には頂点にお金が集まるシステムが出来上がってて、単純に癒されるだけでなく、自分らしく輝き、経済的にも豊かになることをゴールとしているあたりが、…というか、ぶっちゃけ「豊かになる=癒し」が最近のスピリチュアルのトレンドなのだそうだ。
この世界でもマーケティングがキーワードらしいですよ(コンサルティングという人もいる)。
 
著者は、これらのことについて良いとか悪いとかは一言も語らず、「人それぞれの癒しのあり方」を良しとしている。大らかな人なんだね。
 
あたくしは、疑り深いのでスピリチュアルにはイマイチ乗り切れないクチなのだけど、「楽しそうでいいなあ」という気持ちはあるし(自分は無理だけど)、そういうものに惹かれる人の気持ちにはとても興味がある。疑いながらも、実は興味津々な自分にも興味がある。
 
この本、スピリチュアル体験の資金は某財団の研究助成費で調達したそうだ。いいなあ、学者。

 

野の医者は笑う: 心の治療とは何か?

野の医者は笑う: 心の治療とは何か?

 

 ※誠信書房さんは心理系の本の老舗であり、そういうこともあってトンデモ本ではなくアカデミックな本、という体裁を保てているかな? 表紙が漫画なのがあたくし的にはアレなんですけど、著者のお友達の漫画家さんによるものだそうですよ