心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

カウンセリングを技芸(アート)と考える。

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 カウンセリング入門の本で、とてもユニークで面白くてオススメのがあります。

『技芸(アート)としてのカウンセリング入門』杉原保史著
 
ありがたいことに心理学の専門書や教科書ではなく、一般書として書かれた本です。よって、小難しい理論、専門用語は皆無です。易しい言葉で書かれているけれど、人の心を知るにはどんな心得が必要となるのかを知ることができる一冊です。こういう、一般の人を対象とした親切な本の存在はとても貴重だと思います。
 
この本の素晴らしいところは、タイトルに技芸(アート)と銘打っているだけあって、カウンセリングをパフォーミング・アートの一種と捉えているところです。そう、著者はカウンセリングを、音楽や演劇、お笑いなどと同じジャンルと考えているのです。カウンセリングには再現不能なライブ的な性質がありますもんね。
 
この点に関しては著者自身も「世の多くの先生方のカウンセリング観とかなり違っていると思います」とおことわり入れてますが、お笑いなんかと一緒にされると、一部の真面目な学生さんや偉い先生なんかは眉をひそめるでしょうね。
なにしろ、何だかカウンセリングは高尚な技術、って感じが好きな人もいらっしゃいますし。
 
パフォーミング・アートの一種なんだから、理論もいいけどさ、実践に近い練習をちゃんとしようよ、とも言ってます。理論知ってても泳げなきゃどうしようもないじゃん、みたいにカウンセリングを水泳なんかにも例えてますね。
自らも臨床心理士である京都大の教授の方が書いた本なので、「大学の勉強なんかでも、あんまり実習しないの?」とビックリしちゃいます。
 
先生がカウンセリングのお手本を見せないで、理論だけを教えたりする授業方法もまだ主流みたいで、これでは自身が未熟な臨床心理士さんに当たってしまった経験も不思議ではないな、と思います。理論は詰め込むけど、カウンセリングの実践は現場の経験を通じて少しずつ上達していけばヨロシイとされているのが、現在のカウンセリング教育らしい。
そういう部分に関して、著者の先生は「先生が見本を見せないバイオリン教室や水泳教室があり得るか〜!」と吠えてます(笑)。
 
著者が何故カウンセリング実習の必要性を説くかというと、まずはカウンセラーとクライエント双方の心の安全のため、なんですね。下手なカウンセリングは癒すどころかクライエントを間違って傷つけてしまうかもしれません。でも、傷つけることを恐れるあまり、心の核心に触れられないような薄いカウンセリングになってしまうのも避けたい…こんなの、頭で考えただけで上手くできる人なんている訳がない。クライアントを受け入れようとするあまり、疲弊してしまうカウンセラーも少なくないと聞きますから、そういうのも実習を多くすることで、適切な距離感とか掴めるようになるんじゃないかしら?と思ったり。
 
この本の一番良いところは、この本から何となく著者の人柄というか、人を見る目の温かさが感じられるところ。偉い先生にありがちな「教えてやろう的な」上から目線の感じが微塵もしません。この本では、クライエントの自尊心を傷つけず(これ大事!)、しかも本心を揺れ動かすような技の数々を知ることができます。読んですぐに実践できるかというと、それはドシロウトにはもちろん無理なんでしょうけど、そのマインドを心に留めるだけでも、いつかきっと役に立つと思います。
 
この本の先生も含めて、素晴らしいカウンセラーって実は、決して「キレもの」な感じじゃないんですね。むしろ「いい人だなぁ〜」ってシミジミ感じられるような人。もちろん、とても鋭い部分を秘めているのだけど、どこまでも穏やかな感じを崩しません。所詮、知性だけでは動かせないのが人の心だと思います。
 
最後にカウンセリングの限界について、カウンセリングの陥りやすい問題点、悪化するケースにも触れてます。著者の先生は決してカウンセリング万能論者ではないのです。それでもって、カウンセリングがダメだったら、他の方法もあるからさっ、大丈夫だよ!と言ってくれてます。ホント、ホッとしますよ。
 
本の価格は2000円と、ちと高価かもしれませんが、くだらない「人の心を読む」系の心理本を数冊買うよりはるかに役立ちますので、興味を持たれた方は腹をくくってお買い上げください。
技芸(アート)としてのカウンセリング入門

技芸(アート)としてのカウンセリング入門