心の旅のお作法

妙齢からの、己を知る道、心のお散歩(笑)

「ありがとう」と言われ動揺した話。

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ここでこれが出るか!と思った瞬間

とにかく、予想外の場面で予想外の反応があると、あたくしは激しく動揺してしまう。
 
その日、カウンセリングはまだ2回目だった。
まだ本格的にトラウマ治療には入らないで、その前に、頑丈で安全なエリアを自分の中に作る必要があるらしい。そうしないと、とても辛いから、と。
そういう訳で、ざっくばらんにお話をしていた。要するに初期のカウンセリングで行われる生育歴や日常生活についてのヒアリングなんだけど、その先生が素晴らしいな、と思ったのは、そこに事情聴取的な感じが微塵もなかったことだ。
 
そのときの驚きは、苦手だと思い込んでいた食べ物が、本当はものすごく美味しいもので、自分が今まで口にしていたものが単に不味かっただけだったんだ、という気付きに似ている。
あ〜新鮮で上質なカウンセリングって、苦いばかりでなく、微妙な甘みとかあるんだわ、とか、本来の味わいに気付かされるような。
 
そんな風に、事情聴取的ではない話し方、踏み込み過ぎずに相手に興味があることを示す先生のテクニックに、「お話するのが上手いな〜」と油断してしまったらしい。いや、この言い方は良くない…警戒が解かれたのだな。
 
そして、ふとした会話の途中、あたくしは「ちょっと、それは違うんです!」と先生の言葉を遮った。
そうじゃないんです。大変なのは、過去のことばかりではなくて、今も相当大変で…でも、それは過去の出来事につながっていて…
…まあ、そんな感じで変なスイッチが入り、いきなり喋りまくってしまった。
まだ、信頼関係作りはこ・れ・か・ら、というに、勝手に暴走して、まるで露出狂のごとく、追い追い話そうと思っていた自分の恥部をいきなりカミングアウトしてしまったのだ。
 
しばらく熱く語り、言い切ったところで「ありゃ、またやってしまった…」と、自分のココロの露出狂的なところを悔いた。
しばし、静寂が訪れて、この瞬きの間に、「自分、バカだな」「なぜ、自分はこんなに焦っているのか?」「一応控えめにしたつもり」などと様々な思考が、同時にいくつも流れて…
 
「感情を制御できない自分は嫌い」
「こういった話は人を不快にさせるから控えなくてはいけない」
「先生はドン引きしたのでは?」
あとは、なんとも言えない恥の気持ちに集約された。
こんな空気になってしまって、これに、先生は何と応えるのか?
 
それが、「ありがとう」だったのです。
 
「大切なことを話してくれて、ありがとう」
 

「ありがとう」に関して思い出したこと

以前、「ボランティア活動でもして人から「ありがとう」と言われて、自信持てよ」という友人の発言に反発してキレてしまった経験を書いた。
思えば、何故こんな言葉に反応していい大人が小競り合いになってしまったかというと、そもそも双方に「「ありがとう」といった感謝の言葉は、自分が何か(行為や物質)を差し出したときの対価として出て来るもの」という共通の思い込みがあったから、というのもある。
だから、先方の説だと「アルバイトはお仕事だから、すでに金銭と労働の交換が成立しているので「ありがとう」はあり得ない、だからボランティアしろ」となり、こっちは「自尊心は人からの評価ばかりで成り立つものではないんじゃない?」となり、「人からの評価を得るために行うボランティアは偽善! 相手に失礼!」「仕事でも「ありがとう」はあるでしょう?」といった考えに飛躍していっちゃうのね(笑)。
 
だから、まるで次元の違う「ありがとう」に足元をすくわれて、動揺した。多分、良い動揺なんだな、これが。
 
それは、先生の「ありがとう」が、あたくしが「珍しい話をサンプルとして提供したこと」に対してでなく、「人に語りにくい本心を吐露したこと」への感謝なんだわ、と素直に感じ取れたからなのだろう。あたくしの情報に対してじゃなくて、あたくしの気持ちに対しての感謝で、そんな評価の伴わない「ありがとう」があるなんて、コロリと忘れていたから、こんな風に動揺してしまったんだ。
 
そういう「ありがとう」ってあるのね。
感謝されたけど、あたくし何もしてないよ? みたいな。
 
例えば、カウンセリングではこんな時、
「それは大変でしたね」
「それは辛かったですね」
とかは、想定内の応答なの。
こういう言葉を、「評価的でなく」「相手の気持ちに寄り添って」言いましょう、ってのは、傾聴のマニュアル本にも書いてあるのね。こういう模範解答すら、スラスラと出すのに初心者はなかなか苦労するのだけど。 
 
だけど、
「ありがとう」っていうのは!
 
しかも、
「ありがとう」って言葉に気持ちが乗っかっているなんて…
何て洗練されているんだろう! と感動したのです。
 
 
これは不覚にも陽性転移しちゃうわ…と、分析してしまった次第です(また、先生は「考えすぎ!」と言うでしょう)。
 
まあ、「このワザ、何かの折に使おう♪」…と考えるイヤラシイ自分は脇に置いておいて、しばらく、この甘美な動揺を味わってみるのも悪くないでしょう?